nexdsd JAPAN 性分化疾患:家族のためのハンドブック

Consortium on the Management of DSDが発行している「性分化疾患:家族のためのハンドブック」の翻訳など、性に関する様々な体の発達状態を持つ人々と家族の方々をサポートできる情報をお送りします。

性分化疾患を持つふたりの娘さんを育てたアーリーンさんへのインタビュー


より詳しくは、DSD(性分化疾患)を持つ子どもと家族のための情報サイト、ネクスDSDジャパンをご覧ください。


 今回は、性分化疾患を持つふたりの姉妹を育てられた、医師でありかつ母親のアーリーンさんへのインタビューの日本語訳をお送りします。

 お医者さんでもあるアーリーンさんですが、医師よりも「親としての直観を信じたほうがいい時もある」とおっしゃっているのは、実際に子どもたちを育ててこられた母親としての経験があるからでしょう。お医者さんは大切ですが、お医者さんが知っているのはお子さんの「体」のことだけであり、お子さんの存在全てを知っているわけではありません。親としていかにお子さんを支えていくのか、育てていくのか、それができるのは、親御さんだけなのです。(もちろん、まわりからのサポートも大切です。)

 性分化疾患には様々な状態がありますが、サポートグループの運営者として、性分化疾患全般に言えること、大事なこともお話されていますので、ぜひ目を通していただければと思います


 男の子ですか?女の子ですか?もし皆さんの赤ちゃんが発達不全外性器を持って生まれたら、お医者さんはすぐには答えられないでしょう。そのような状態は、現在では「hermaphrodite(男でも女でもない性別:半陰陽)」という言葉は使われておらず、「性分化疾患DSD)」と言われています。性分化疾患を持つ子どもは、他の人とは少し違った性染色体、あるいは他の人とは少し違った性腺(卵巣や精巣)、あるいは通常とは異なる発達をした外性器を持っており、2,000人に1人の割合で生まれてきます。


 アーリーンさんは、医師であり、性分化疾患を持つ人々の支援者であり、そして完全型アンドロゲン不応症(XY染色体と精巣を持っていながら、男性ホルモンに反応しないため、女の子として育つ状態:CAIS)を持って生まれ育った二人の娘さんの母親でもあります。AIS/DSD両親のためのサポートグループとの共同活動として、アーリーンさんは娘さんと一緒にオプラショー*1に出演され、娘さんは性分化疾患の状態で育つこと、自分の性器のことも話されました。


 彼女はまた、インフォームドチョイス・アドボケイトの理事会に対して、家族として医師としてアドバイスをする立場でもあります。(インフォームドチョイス・アドボケイトは性分化疾患を持つ子どものための法律面からの支援を提供しています)。また、アコード・アライアンスでは、グループ関係者の委員長もされています。アーリーンさんには、性分化疾患を持つ二人の子どもを育てる上での、男の子か女の子かがはっきりしていく過程や、子どもが自分自身のからだを受け入れていくにはどうすればいいかなど、さまざまなことをお話していただきました。 ――インタビュアー ミーガン・プレイチャ


――娘さんがお生まれになったときには、性分化疾患のことはどれくらいご存知だったんですか?


 医学生のときに、いわゆる「intersexの状態」についての講義は受けていましたし、AIS(アンドロゲン不応症)について学んだことも覚えています。ですが、娘たちが生まれた時は、この子たちのAISについては分かりませんでした。分かったのは、姉の方が6歳でヘルニアの手術を受けたときです。幸運なことだったのですが、その時の小児外科の先生がすばらしい人で、ヘルニアの中に精巣があるかどうかをちゃんと調べて見つけられたんです。鼠径部のヘルニアを持つ女の子の約1%は、AISを原因とするものです。そしてその要因は家族にも流れていますので、妹も検査を受けるようおっしゃったんです。姉妹ともAISだと分かったのは、妹が4歳、姉が6歳のときです。


――あああ。お医者さんの反応はどうでした?アドバイスはありましたか?


 ええ。担当の専門医は実際すばらしい人でした。医大の小児内分泌学の専門の先生で、とてもサポーティブで支えになってくれました。娘たちは健康で完全な女性ですとおっしゃっていただきました。ただ、娘たちが大人になったときにはどういうことが起きるのか、それについてはあまりご存知ではありませんでしたので、私は将来のことがずっと心配で、同じような状況を体験してきた人に会ってみたいと思っていたんですが、紹介はしてもらえませんでした。それはとても孤独でつらい状況でした。


――アーリーンさんが体験されたことは、お子さんが診断を受けた他の親御さんにも言えることだとお考えですか?


 はい。私はAIS/DSD親のためのサポートグループという150家族が参加するグループのメンバーですが、ご両親の大多数が、このグループに参加するまで、同じ状況にある他の人と会うことも話すこともありませんでした。


――娘さんお二人に性分化疾患のことをお話されたのはいつですか?診断されてからすぐに?どんなふうに話されたのですか?


 ふたりにはすぐに話をはじめました。娘たちには肯定的に受け止めてもらいたかったんです。養子をもらうことを選択すれば、家族を持てるという期待も持ってもらいたいと思いましたので、さまざまな形の家族のいいところを中心に、自分自身を良しと思えるようがんばってきました。


――小さなお子さんに自分のからだのことをどんなふうに説明していかれたのでしょうか?


 まだ歩き始めの小さな子どもはたくさんの質問をしてくるものですが、違いというものも受け入れていきます。もし子どもが「私の大事なところって、他の人となんで違うの?」と聞いてきたら、「うん、中にはね、他の人と見た目が違う大事なところを持っている人もいるのよ」と言ってあげれば、子どもたちはそれを受け入れます。ただまだこの時期の子どもはとても具体的なことしか考えられませんので、この時点では細々した説明は必要ありません。 自分の性器などのことを変だと思っても、子どもはそれを受け止めていけます。最初からくどくど話すのではなく、必要に応じて少しずつ話していくのが大切です。そうすれば、子どもたちは幼稚園に入るまでには、自分の自己アイデンティティを成長させていけます。それとこの年代では、性別アイデンティティ性自認)も発達していきます。それに両親を自分のロールモデル*2にしていくことでしょう。子どもたちへの話は、ちゃんと事実に即したことを話すことが大切です。そして「こういう人もいれば、ああいう人もいる。みんないろいろなの。さ、夕ごはん食べよ」と言ってあげてください。


――少し話が変わりますが、性分化疾患を持つ子どものご両親に一番大事なアドバイスはどんなことだと思いますか?ご両親が守るべき一番大事なことは?


 ただただ、子どもを愛してあげてください。それとオープンに話せるようにしていってください。もし家族がオープンな雰囲気を持っていてお子さんのことを受け止めていけば、お子さんのこれからの人生はしっかりとしたものになっていきます。お子さんも成長すれば、自分は受け入れられているんだ、性分化疾患を持っていることなんてそれほどたいしたことじゃないんだ、それはそれで良いと、いつか分かってくれるでしょう。もうひとつ。お子さんの支え役になってあげてください。どうすればいいのか親の直観を生かしてください。お医者さんは必ずしもこの分野の経験をたくさん持っているとは限りませんし、ご両親のほうが医療従事者よりも大事なことを知っていることなんて沢山あるのですから。


――性分化疾患性自認や性指向*3と関係があるのですか?


 みなさんそこに注目したがりますし、ご両親にとっても大きな関心事にもなりますね。けれども実際は、性分化疾患のことと、性自認・性指向とは関係がありません。医学的・身体的なこととは関係なく、自分のことを男でも女でもないと感じる人はいますが、ほとんどいらっしゃいません。性分化疾患を持った赤ちゃんや子どもはみな、男の子か女の子か性別判定を受けています。判定は、子どもが将来成長して感じる性自認を、両親と医療チームが考えて行われます。大多数のケースで、よく考えられた性別判定なら正しいものになります。もちろん性別変更するお子さんもいらっしゃいますが、極めて少数です。


――性別判定はどのように行われるのですか?


 ちゃんと考慮せねばならないのは、外性器の外観と、子どもが持っている性腺は何か、その性腺はどの種類のホルモンを生成するかということです。CAISを持つ女の子は、染色体がXYで精巣を持っていても、女の子です。他の何者でもありません。胎児の脳が男性ホルモンに暴露されると、ある種の脳の男性化がありうることはご存知だと思います*4。そのことをお聞きになりたいんですよね。男の子を女の子にすることはできません。でもつい最近まで、そういう間違いが繰り返されていたんです。染色体がXYで、小さなペニスと精巣を持つ男の子を医者が見て、「このペニスでは、小さすぎてちゃんとしたインターコースができない。だからこの子は男の子じゃない」と言って、外科手術で膣を作って精巣を切除して女性ホルモンを投与する。もちろんその子どもたちは必ずしも自分を女の子だと思うとは限りません。ですので、この劇薬みたいな「治療」を施した後、子どもには何をしたか絶対言わないように両親は言われていたんです。そうして、大きくなって、何か絶対おかしい、自分の身体なのに自分の身体じゃない感じがする子どもたちがたくさん出てくることになっていたのです。


――その当時、ペニスの長さを測るのに”ペニス定規”を使って、ある長さ以上なら男の子、ある長さ以下なら女の子ということにされていたんですね。*5


 そうです。本当にあったことです。


――性分化疾患について人々が論じる時によくある間違いにはどのようなものがありますか?


 そういう人たちは、性分化疾患を持った子どもたちはトランスセクシャルトランスジェンダーだと思ってらっしゃるでしょうね(トランスジェンダートランスセクシャルの人たちが、誤った性別で育った人のことです)。全然そうじゃない場合がほとんどなのに、みなさん、性分化疾患のことをジェンダーの問題にしたがるのです。そのような状況自体が、実は私たちが問題としていることです。ただいろいろな男性がいる、いろいろな女性がいるというだけの問題に過ぎないのですが。


――なるほど。オプラショーはいかがでしたか?


 ああ!彼女はとても素晴らしかったです。とても親切な方でした。オプラは私たちの文化の最高の女性祭司のような存在でしょうね。オプラがOKと言えば、みんなOKになるんですから。「見てください。私たちはこの人たちについて考え、受け入れていかなきゃいけません」と彼女が言えば、たくさんの人たちが目を開くんです。私達のグループに参加されている性分化疾患を持つ子どもの親御さんたちは、いつもお子さんのプライバシーを心配され、子どもを守りたいと思ってらっしゃいます。今回の番組はアメリカ中の何百万人という人が見ました。TVを見る人たちには、性分化疾患を持つ青年たちを本当に理解、性分化疾患を持つ子どもたちも皆と同じ素晴らしい子どもなんだと理解してもらえ、親御さんたちも重荷から解放されたとおっしゃっています。
   

*1:訳者注:米国の有名なトーク番組。司会者のオプラ・ウィンフリーは、日本で言えば社会派の黒柳徹子のような存在です。

*2:訳者注:「お手本」のこと

*3:訳者注:「性自認」とは自分のことを「男性である」「女性である」と認識すること、「性指向」は男性を好きになるか女性を好きになるか両方を好きになるかということを指します。ここでは、性同一性障害の方のように育ちの性別と異なる性自認を持つようになることや、同性愛・両性愛の方との違いを意味しています

*4:訳者注:現在では、胎児期のアンドロゲン暴露は男の子のような活動性を促すことはあっても、性自認にはほとんど影響しないことが分かっています。

*5:訳者注:欧米では1950年代からつい最近まで、一見見ただけではすぐに性別がわからない外性器を持って生まれた子どもたちについては、ペニスの長さを基準に(2.5センチ未満なら女の子にする)男の子、女の子の振り分けが行われ、女の子とされた子どもはペニスを去勢され、精巣を切除、女性ホルモン治療を行うという「治療」がなされてきました。もちろん、多くの子どもが被害に会うことになり、このようなずさんでいい加減な「治療」への批判として、「ペニス定規(phallometer)」という言い方がなされました。

キャスター・セメンヤさんのこと

御覧の皆様へ

当事者家族の皆さんが問うているのは「男女の境界の無さ」ではありません。むしろそのようなご意見は、当事者の皆さんの女性・男性としての尊厳を深く傷つけるものです。

​私たちがお願いしているのは、「女性にもいろいろな体がある、男性にもいろいろな体がある」ということです。

どうか、お間違いのないようにお願い致します。

 

 リオ五輪も中盤にさしかかり、陸上競技が連日繰り返されています。そして、「性別疑惑」という汚名を着せられた、南アフリカの女性中距離選手、キャスター・セメンヤさんも、8月17日の女子陸上800Mに出場予定です。

 恐らくですが、また日本でも心ない報道や、いろいろな人のいろいろな「意見」が交わされ、センセーショナルな喧騒が勃発し瞬く間にまた消えていくことでしょう。

 そしてそれが、セメンヤさん自身にどう体験されているか考える人はまた少ないままに。

 ここからの文章は、私が入会している、世界最大級のDSDs(体の性の様々な発達:性分化疾患)の当事者・家族会の秘密のグループページに、2015年に書き込んだ投稿の日本語訳です。

 セメンヤさんに巻き起こった喧騒について、私や会の皆さんがどう想いどう感じているか、少し恥ずかしいですが、かなり直接に書いています。

 

 私が主催しているネクスDSDジャパンでも特設ページを作りました。長年DSDsを持つ子どもたち・人々と家族の皆さんの支援を行っている、スタンフォード大学生命倫理学センターシニア研究員の文化人類学者・生命倫理学者カトリーナ・カルカジスさんのエッセイの翻訳です。彼女は、今回の五輪出場に関してセメンヤさんと同じく「性別疑惑」の汚名を着せられ、IOCの「高アンドロゲン症」規制により、出場資格を失いかけたインドの女子短距離選手デュティ・チャンドさんの弁護に立ち、五輪出場資格を勝ち取りもしました。ぜひ、読んでいただければと思います。

www.nexdsd.com

 

 

キャスター・セメンヤさんのこと

 

  今日久しぶりにセメンヤさんの顔を見ました。BBCニュースで彼女がインタビューに答えてたんです。何かの重みのようなものを抱えながらも、穏やかな彼女の笑顔に、当時の喧騒・騒ぎの中、彼女はそれでも静かに大地を蹴って走りつづけ、心の重荷を自分自身の存在の重さとしてきたのかなあと、感銘を受けました。

 

  あのセンセーショナルな喧騒の時、最初僕自身はどこか遠くの世界を眺めるように、あまり現実感なく、でも胸の中ではなんとも言えない違和感を感じていまし た。オリンピックという、とにかくなんかすごいアスリートが集う祭典ですから、最初は別の世界のように感じていたんでしょう。  

 

  でもこのグループで、「私たちも、自分の体のことを話すと、こうなっちゃうんだよね…」というKの書き込み、「僕たちは普通にただの男性・女性なのに、医者も周りも自動的にこういう騒ぎを起こす」というSの書き込み、「誰もセメンヤさん自身のことを考えない」というJの書き込みに、僕の胸の中の違和感は突然表に出てリアリティを増し、怖いというよりも、当時みんなが言ってた通り「ウンザリ」という、けだるく、力が抜けていくような感覚を感じたものです。「ああ、またか」という…。  

 

 センセーショナルな喧騒は日本でも同じでした。一方は「実は男性だった!」「ハーマフロダイト(両性具有・男でも女でもない性)」だった!」「男か女かどっち!?」と、やはり主に3流メディアは沸き立ちました。それを受けての反応も、物珍しい物を見ているかのような、フリークス(奇人変人)ショーさながらの 好奇な目線でした。

 

 そしてやはりもう一方の反応も、日本でも全く同じものでした。そう、「性別(gender) 問題」です。おそらく彼らはセメンヤさんを擁護しているかのように感じていたのでしょう。「セメンヤさんもこれからインターセックスとして生きていかれる でしょう」、(マスコミ暴露後、彼女がフェミニンなドレスを着た姿をメディアで披露したことについて)「男でも女でもないのに、無理やり着せられてかわい そう」。そしてこれも全く同じでした。「このように男でも女でもない人がいるから、男女の区別はない」「オリンピックの男女二元論に疑問を投げかけるべき だ!」。  

 

 彼女が自分を「男でも女でもない性別」として表象したり、オリンピックの男女別を無くすと、そもそも彼女が勝ち取った金メダルはどうなるのか考える人は残念ながらいなさそうでした。(「インターセックスが」ではなく、)「セメンヤさんが」次のオリンピックに出られるかどうか心配している人も誰もいなさそうでした。

 

 そもそも彼女自身が果たしてどう望んでいるかなんて、微塵も考えていなさそう、 あるいは、まるでみんな、彼女は自分たちが思うように望んでいるとでも思っているかのようでした。彼女自身の存在、想いなんて、彼らの熱心な議論ではどうでもいいようでした。  

 

 日本も全く同じでした。そもそも彼女の個人情報が、彼女という存在にとってとてもプライベートで大事な体の性(性器)に関わる事柄が、世界中にセンセーショナルに暴露されたことを疑問に思う人を見かけることはありませんでした。それが彼女にとって、どれだけ 恐ろしい体験になっているかもしれないか考える人はいませんでした。主体性を脅かされる怖さ、気持ち悪さというのは、やられた側しか分からないものですね。 

 

 それに、僕はそうでもありませんでしたが、皆さんの話を聞いて、性分化疾患の診断がどれだけショックを与えるものか、自分自身の男性・女性としての大切な想いをどれだけ損なうものになるか知りました。あるいはセメンヤさんもそういうショックを受けているかもしれない、そういう想像をする人も全く見かけませんでした。(彼女はレズビアンであるという確認不明の情報もありますが、レズビアンであればショックを受けないというわけでもないでしょう)。  

 

 そもそも、彼女は嘘を付いてるわけでもなく、彼女のプロフィールを見る限り、彼女自身も自分の体の状態に気がつくことなく、全く女性で生まれ育ってるはず で、そもそも彼女は「女性競技」に出ている。彼女を他の女性アスリート同様、ただのひとりの女性として見ようというという視点はほとんど見かけませんでした。

 

  IOC(国際オリンピック連盟)が取ったガイドラインに疑問を投げかける人も全くいませんでした。(注:IOCは セメンヤさんの騒ぎの後、女性選手の場合、血中のテストステロン値を一定の基準以下でなくてはならないというガイドラインを作りました。ただ、インターセックス活動家のエミ・コヤマさんは、そもそもオリンピック選手は体からして異能者なのだから、なぜセメンヤさんだけがそういう措置を受けねばならないの か疑問を投げかけていました。それは僕も納得の行くところです)。金メダル剥奪にしなかったことは評価できますが…。  

 

 つまり双方とも全く同じでした。「セメンヤさん」という個人の人生、個人の想いの話は、まるでそれが当然であるかのように彼女自身から奪われ、ステレオタイプな「両性具有」というイメージに覆いかき消され、隠され、個人の存在から体だけを引き抜いて自己目的化され、政治運動の議論に用いられ、まるで彼女の体は自分たちのもので あるかのようにおしゃべりする批評家気取りの人たちばかりになっていきました。  

 

 やはり彼女は、自分がひとりの人間であることを奪われていきました。誰も、「セメンヤさん彼女自身が」どうしたいのか、どう思っているのか、少しでも考える人はいませんでした。 

 

 これって結局、ここのみんなが訴えてきたことと同じですよね。もちろん僕も彼女の想いを分かるわけがありません。僕は彼女ではありませんから。ただ、様々な彼女のプロフィールを見る限り、直観的に、金メダルは彼女に とってとても大切な物だろう。だってそれは彼女自身の歴史と人生、彼女自身の不断の努力の証なのだからということ。(生活の苦労があったようです)。そして何よりも、彼女はただとにかく「走りたい」だろうということだけは確信しました。 

 

 僕やみんなのごく控えめな直観は、当たっていたようです。 

 

 彼女が、 センセーショナルな喧騒も、珍しい物を見るような目も、つまらない意見や議論も、一陣の風のように背にして駆け抜ける姿は、きっと僕とみんなを励ましてく れると思います。  

 

(記事より、セメンヤさんの言葉)

「なにか思うことがあったら直接私に聞けばいいだけなのに。誰かが「いいや、彼女は男みたいだ」とか何とか言う。でもそんなことで私を止めることはできない。だってそれは私の問題じゃないから。そんなこと言うのはその人の問題だから」

「自尊心を傷つけられて怖かった。他人が私について考えることを、私自身には止められない状況だった。私自身のことなのに」

「ここの人は私を理解してくれてます。私は偽物じゃない。私は自分がなりたくないものになりたくない。他人が望むものになりたくない」

「他人がどう思うかなんて関係ない。他人が考えることなんて間違いだと証明したい。私はランナーだし、私がベストを尽くすのは走ることだけ。簡単でしょ?」

 

  また、イギリスBBCが制作したセメンヤさんについてのドキュメンタリーは、あの喧騒の中でセメンヤさん自身が何をどう体験していたのか、彼女自身 の体験と言葉を通して描いています。英語ですが、セメンヤさんの言葉には英語の字幕が付いていて、彼女の言葉はとてもシンプルですので、ご理解いただける と思います。すばらしいドキュメンタリーです。

彼女はこのドキュメンタリーで、このように語っています。

「女の子も男の子も生まれ様はそれぞれでしょ?それをわざわざその子のところに行って責めたりする?神様を責める?それぞれの生まれ様は誰の間違いでもないじゃない」

 

「女性の定義って何?スカート履いてたら女性ってこと?いろいろな女性がいるじゃない。私は女性。それ以上言うことなんてない。私はこういう女性なの」


Too Fast to Be a Woman The Story of Caster Semenya

 

f:id:DSDhandbook:20160417010830j:plain

25Faces of CARES

先天性副腎皮質過形成(CAH)とは、腎臓の上にある副腎という器官の異常により起こる疾患です。副腎は本来、感染症やケガなど体にストレスが加わる時に体の状態を調節する大切なホルモン「コルチゾール」や、血液中の塩分と血圧を調節するホルモンを作っているのですが、CAHの大部分を占める21水酸化酵素欠損症では副腎の異常により、その大切なホルモンが分泌されず、ストレス時には逆に副腎ショックという深刻な状態を起こしてしまい、最悪の場合には死に至る可能性もあります。そのためお薬は一生欠かせません。現在日本では、赤ちゃんの命に関わる疾患が早めに分かるようにするためのマススクリーニング検査にCAHが加わっており、生後間もなくの死亡などは防げるようになっています。
 
 
CAHはXXの女の子にも、XYの男の子にも先天的に起きる疾患ですが、女の子の場合、コルチゾールなどの命を守る大切なホルモンの欠乏からの連続で、高アンドロゲン化作用が起きる場合があり、少し性別が分かりにくい状態で生まれてくることがありますが、然るべき検査の上でちゃんと女の子であることが分かるようになっています。ですが、親御さんにとっては娘さんの命に関わる疾患であるため、非常に怖くつらい思いをされることになります。
 
 
アメリカのCAHサポートグループ「ケアズファウンデーション」は、CAHを持つ女の子・男の子そして家族の皆さんへのサポートや情報提供を行っている団体です。アメリカのこのような患者会は皆さんからの寄付で成り立っているのですが(欧米では寄付の文化が普通なのです)、よりたくさんのCAHを持つ子どもと家族の皆さんをサポートできるよう、現在25Faces of CARESという募金キャンペーンを行っています。
 
まずは早速、ネクスDSDジャパンサイトFACES & VOICES」で、CAHを持つ女の子ロンジンちゃん(とってもかわいい女の子です)とお母さんの声を掲載しました!ぜひサイトにお立ち寄り下さい。
 
 
命にも関わりセンシティヴな問題も含まれるため、親御さんたちが自分の家族の物語を語られるのには、とても勇気がいることです。色眼鏡で見られることが何よりもご家族やお子さんを傷つけることになります。
 
 性分化疾患とは、「染色体、生殖腺、もしくは解剖学的に性の発達が先天的に非定型的である状態」のことで、「男でも女でもない」「中性」「第3の性」のことや、性同一性障害トランスジェンダーの人々、性自認のことではありません。)
 
 

FACES & VOICESに、MRKHを持つ女性のポートレイトをアップしました!

 

ネクスDSDジャパンサイトの、DSDを持つ人々や子ども、家族のポートレイト集「FACES & VOICES」にMRKHを持つ女性ブリアナさんのポートレイトと声をアップしました!

MRKHを持つ女性のサポートグループ、Beautiful You MRKH Foundationが設立されて以来、MRKHを持つ女性の皆さんのムーヴメントがとても大きくなってきています。日本でもBeautiful Youの日本版ができるといいですね。

f:id:DSDhandbook:20140311223519j:plain

ネクスDSDジャパン 「私のMRKHストーリー」

 私のMRKHストーリー(MRKH:性分化疾患) - YouTube

 

ネクスDSDジャパン動画サイト、「DSDを持つ人々のサポートムービー」に、MRKHを持つ女性クリスティンさんのセルフビデオ「私のMRKHストーリー」日本語字幕版をアップしました!MRKHについて自分が思うこと、悩んだことを、ですがコミカルにつづっていらっしゃいます。

クリスティンさんはアメリカのテレビ番組「ザ・ドクターズ」にも出演され、ご自身のことを話されています。

f:id:DSDhandbook:20140223124945p:plain

The Doctors TV Show - Doctors Exclusive: Born Without a Birth Canal

 

 MRKH(メイヤー・ロキタンスキー・クスター・ハウザー症候群)とは、女性の性分化疾患のひとつです。MRKHは、主に思春期の無月経から、膣や子宮、卵管の一部もしくは全てが無い状態であることが判明します。女性にとっては、とても心痛められることが多い体の状態です。

性分化疾患とは、「染色体、生殖腺、もしくは解剖学的に性の発達が先天的に非定型的である状態」のことで、「男でも女でもない」「中性」「第3の性」や、性同一性障害トランスジェンダーの人々、性自認のことではありません。)

 

 

「性に関する体の発達とDSDについて」

 

DSD性分化疾患)を持つ子どもと家族のための情報サイト ネクスDSDジャパン」に、「性に関する体の発達とDSDについて」をアップしました。f:id:DSDhandbook:20140218141914p:plain

 

DSD性分化疾患)は現在特定されているだけでも約70種類以上あるとされています。これほど様々なDSDがあるのは、胎児期での性に関係する体の発達が実は非常に複雑なものだからです。様々なDSDを理解するには、この複雑な性に関係する体の発達(性分化)についての正確な知識が必須になります。

カナダ、トロントのこども病院では、この性分化とDSDについて分かりやすくヴィジュアルで解説するサイトが用意されています。現在、私たちネクスDSDジャパンと共同で、トロントこども病院のサイトにこのDSD解説の日本語版を開設する予定なのですが、一足早く日本でご覧いただけるようネクスDSDジャパンのサイトにアップしました。

DSDについて本当に理解したい方や医療従事者の方にもご利用いただける内容になっています。ぜひご覧いただければと思います。

 

「子どもについて」

「子どもについて」

  ここでご紹介する詩は、ハリール・ジブラーンによる「子どもについて」という詩です。ハリール・ジブラーンは1883年に生まれ、1931年に亡くなった詩人です。この詩は、彼の1923年出版の詩集「預言者」に収録されているものです。お子さんについて、少し物思いにふける時、一息つける時に読んでいただければと思います。*1

 

赤ん坊を抱いたひとりの女が言った。
どうぞ子どもたちの話をしてください。
それで彼は言った。
あなたがたの子どもたちは
あなたがたのものではない。
彼らは生命そのもの
あこがれの息子や娘である。
彼らはあなた方を通して生まれてくるけれども
あなたがたから生じたものではない。
彼らはあなたがたと共にあるけれども
あなたがたの所有物ではない。

あなたがたは彼らに愛情を与えうるが、
あなたがたの考えを与えることはできない。
なぜなら彼らは自分自身の考えを持っているから。
あなたがたは彼らのからだを宿すことはできるが、
彼らの魂を宿すことはできない。
なぜなら彼らの魂は明日の家に住んでおり、
あなたがたはその家を夢にさえ訪れられないから。
あなたがたは彼らのようになろうと努めうるが、
彼らに自分のようにならせようとしてはならない。
なぜなら生命(いのち)はうしろへ退くことはなく
いつまでも昨日のところに
うろうろ ぐずぐず してはいないのだ。
あなたがたは弓のようなもの、
その弓からあなたがたの子どもたちは
生きた矢のように射られて 前へ放たれる。
射るの者は永遠の道上に的をみさだめて
力一杯あなたがたの身をしなわせ
その矢が速く遠くとび行くように力をつくす。
射る者の手の中で身をしなわせられるのをよろこびなさい。
射る者は飛び行く矢を愛するのと同じように
じっとしている弓をも愛するのだから。

*1:訳者注:この詩は神谷美恵子による翻訳本が出ています。神谷美恵子さんは1979年に亡くなられた日本で著名な精神科医で、ハンセン病の患者の人たちと共に生き、「治す」ことよりも「生きる」ことについて、「生きがい」について哲学的な考えを深めて行きました。ここの翻訳は、神谷美恵子さんの翻訳に少しだけ手を加えたものをご紹介しています。この詩がハンドブックで紹介されている意味については、親御さんだけではなく、性分化疾患を持つ人や親御さんを支援したい、性分化疾患を持つ人について考えたいと思われる方も、よくお考えいただければと思います。