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性分化疾患の子どもの両親のためのUCSFサポートグループ設立

サンフランシスコ・クロニクル紙 2011年5月7日掲載

  
彼女は遅咲きの花だった


 彼女は思春期がやってくるのを待ち続けたが、17歳になっても何も起こらなかった。検査を受け、自分がスワイヤー症候群という稀な身体の持ち主であることを知り、ホルモン補充が必要とされた。


 その後8年間、彼女が自分の身体について更に情報を必要とするまで、彼女が男性のXY染色体を持っているということを誰も彼女に告げることはなかった。


 「それが当時70年代では当たり前だったんです」。現在51歳になり、サン・レアンドロ市で、夫と養子縁組したふたりの10代の子どもと一緒に暮らすノルマンは言う。「こんなことを聞いたら、私が屋根から飛び降りて自殺するとあの人たちは思ったんだと思うわ。でも私はちょっと変だったのね。逆にホッとしたんだもの」。


 彼女は今、別の子どもと両親が「性分化疾患(DSD)」について学び、受け入れていけるよう支援に取り組んでいる。性分化疾患とは、現在では医師や患者では用いられなくなっているhermaphrodite(ヘルマフロディーテ:半陰陽)の医学用語である。


 The Bay Areaは、来週UCSFでの木曜日のミーティングに、はじめて性分化疾患の両親のサポートグループを開催する。ノルマンも含めたオーガナイザーは、このグループが、性分化疾患を持つ子どもを育てていく中で起こるだろう特殊な問題をオープンに家族が話していけるリソースになればと望んでいる。


 このような疾患は3,000出生例に1人の割合で起こると言われているが、スワイヤー症候群のように誕生時には分からない状態から、男性か女性かすぐには見分けられないあいまいな性器を持って生まれる子どもまで幅広い様々な状態がある。



支援が始まった


 このような性分化疾患の子どもと家族のためのサポートグループが全米で始まっている。


 「赤ちゃんが診断されたら、今では親御さんは行けるところがあるんですよ。そういう体験を生きたことがない私たちから話を聞くだけになってしまうのではなくてね」と語るのはアンジェリック・サンポー。UCSFの性分化疾患クリニック創設を支援した看護師養成者である。


 性分化疾患をめぐる文化は、社会的にも医療的にもノルマンが子どもだった頃からここ10年で劇的に変化した。生後まもなく乳児の外性器を「固定する」手術は、現在でもどちらかというと一般的だが、性別同一性(性自認)について知られるようになるにつれ疑問視されることが多くなっている。


 様々な分野が揃った医療チームが、この障害をめぐって作られてきている。UCSF病院とスタンフォード大学医学部は、ここ5年間、新生児と成長した子どもへの更に繊細なケアを行えるプログラムを始めている。赤ん坊への性器手術を行う上での問題点や、子どもが育っていく中で起こり得る性別の問題にいかに取り組んでいくか両親と話し合っていけるよう、生後まもなく児童精神科医がチームに加わることが多い。


 「心理社会的ケアが重要だろうという考え、自動的にすべての子どもに性器手術を行わないようにするという考え、すぐさま性別決定をしなくてもいい、大丈夫だという考えは今では理解されています」とカトリーナは言う。彼女はスタンフォード生命医療倫理センターのシニアリサーチ研究員で、そこで性分化疾患プログラムを作っていくのに協力した。



対応の変化


 治療対応の変化には、性別同一性(性自認)についての理解の改善もある。数十年前には、子どもの性器の外見がどちらに見えるか、彼女もしくは彼がどのように育つかということが、彼もしくは彼女の性別を決定付ける、あるいは少なくともスタートラインとなるだろうと考えられていて、それを主な理由として「矯正」手術がここまで一般的になっていた。


 しかし、誕生時に性器を変えられ、その後決定された性別を拒否する子どもたちのケースがあらわれた。彼らは、自分から話ができないほどに幼い時期に自分たちになされたことと、そしてしばしば最初から自分の出生の真実を話されなかったことに、怒りとフラストレーションをためていたのだ。


 両親はその間大変大きな罪悪感を背負っていた。それはしばしば、自分たちが子どもに対して間違った性別に決定したように感じていたからだ。


 両親と子どもが直面する問題は他にもまだあると、性分化疾患の専門家は言う。しかし少なくとも現在では、これからあり得る問題に事前に知り、見た目の性別の特徴に基づいて急いで決定しなくてもいいようになっている。


 「性器の手術をしなくても性別を決定することはできますよ。性器がどんなものであれ、性別は獲得できます」。カトリーナは言う。「でもこのことを理解してもらうのに何年もかかりました」。


 だが、性分化疾患の診断には今でも重いスティグマ*1が伴うことには疑いがないと専門家は話す。カトリーナは、性分化疾患の子どもの両親に初めて会う時には、子どもは「異常でも奇形でもないのだ」ということを強調していると言う。


 「私たちは、親御さんに自分たちの美しい子どもを見て欲しいのです。この子は面白い人生を送ることになるでしょうねと話しています」。



対処する力を支援する


 それが、今週始まるサポートグループからノルマンが両親に受け取ってもらいたいメッセージだ。社会での受け入れや医療ケアは、彼女が子どもの頃からは劇的に良くなっていったが、道はまだまだこれからだとノルマンは実感している。彼女は去年短いテレビ番組で取り上げられたが、その後のオンラインでの人々のコメントは、ほとんどがひどいものであった。


 ノルマンは語る。「ネガティヴなことばかり言うんですね。家族がどうやってそういう現状に対処し、かわしていけるか…。この身体をめぐる話し難さや秘密のために、両親が子どもや自分たちのために必要なサポートにまでつながらないことが多いんです。私は彼らにサポーティヴな雰囲気を提供できればと思っています。そうすれば親御さんは、自分の子どもが健やかで強くなっていくようにできるでしょうから」。
  

*1:訳者注:社会的偏見のこと