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Going beyond X and Y

Scientific American 2007年5月20日に掲載されたレポート。

Going beyond X and Y

Babies born with mixed sex organs often get immediate surgery. New genetic studies, Eric Vilain says, should force a rethinking about sex assignment and gender identity.

By Sally Lehrman

X・Yを越えて

形成不全外性器を持って生まれた赤ん坊は、即座に外科手術が行われることが多い。これからの遺伝研究は性別の決定と性同一性について再考することを強調するべきだと、Eric Vilainは語る。

By Sally Lehrman

 Eric Vilainが20年前、医学校のローテーションを始めた当時は、あいまいな性器を持って生まれた赤ん坊はフランスのレファレンスセンターに送るように言われていた。パリで医師として彼が見たのは、ある赤ん坊が持って生まれたものをチェックしすぐさま男の子か女の子に決定しようとする病院の姿であった。まるで自分たちの不快感と社会的通念にかられて、この選択はなされているようだ、若き日のVilainは驚きと共にこの光景を眺めていた。 彼は当時を思い出しこう語る。「わたしは問い続けました。『そんなことどうやって分かるんだ?』」。結局、その赤ん坊の性器は中の生殖器とは一致しなかった。

 Vilainは偶然にも、19世紀の半陰陽のひとり、Herculine Barbinの記事を読むことがあった。有名な社会構築主義者であるMichel Foucaultが描く、彼女の愛と苦悩の物語は、Vilainの疑問を大きくした。彼は、性における「正常」とは実際のところ何を意味するのかを探り、性分化の基礎生物学に答えを見出す道へと歩みだした。

 今日、40歳のこの生粋のフランス人は、乳児期の性別決定が何故如何に通常ではない方法を取るのか、親や医師がこのことを説明するのに頼りとなる、数少ない遺伝学者のひとりになっている。ロサンゼルス、カリフォルニア大学にあるVilainの遺伝ラボにおける発見は、技術的な理解の改善と共に、より思慮深い治療に向かう分野を広げてきた。

 「本当に大切なことは、性に関して本人が感じることであり、その人がどうあるべきか家族や医師が考えることではないのです」とVilainは言う。形成不全外性器は概算で出生数4,500例のうち1例、停留精巣のような問題は100例中1例起きる。合衆国中の病院で、ざっと5件の性別決定手術が毎日行われていることとなる。

 Vilainの研究には、最近までずるずると行われてきた性別決定の古い考えを覆すのに役立ったものもある。男性の性発達のルートは「能動的」なもので、Y染色体の存在によって引き起こされるもの。発達生物学で学生たちはこれまでずっとそのように教えられてきた。 対照的に、女性のルートは受動的なもので、基本的な経路である、と。この考えは、フランスの心理学者Alfred Jostが1940年代に行った実験で証明したと考えられていた。去勢されたウサギの胚が女性に発達したというものである。

 「半陰陽(ヘルマフロディーテ)」や「インターセックス」という言葉は、あいまいで人を傷つけるものだとVilainは語る。

 1990年、ケンブリッジ大学で、Peter GoodfellowはSRY、Y染色体上の「マスタースイッチ」とまで呼ばれた遺伝子を発見する。この過程におけるたった一つの塩基対が変化すると、男性ではなく女性がつくられるだろうというものであった。染色体ではメスのはずのマウスに研究者がSRYを組み込むと、XXの胎児はオスとして成長した。

 しかし、Vilainなどの研究では、もっと複雑な構図が浮かび上がってきた。 SRYは直接に男性成長に切り替えるのではなく、「抗精巣化」遺伝子を阻害する働きをするのだと、彼は提唱した。たとえば、二つの女性染色体ではあるがSRYを持つ男性は、通常の男性形からあいまいな混在形までさまざまな形態を取る。更に、SRYは遺伝子転写を抑制(拘禁)することが試験管研究で明らかにされ、このことは、SRYが干渉という形で働いていることを示した。最終的には1994年、Vilainのグループは、SRYなしでも男性が発達できることを示した。 性別は、様々な、促男性化、抗男性化、そして恐らく促女性化遺伝子の間の繊細なダンスから発生するというモデルをVilainは提唱する。

 研究者たちは長い間、女性の発達が基本の過程であるとの見解を取っていたため、促女性化遺伝子の研究は後回しになっていたのである。しかしここ数年、遺伝学者たちは、能動的な女性化決定のエヴィデンスを発見してきている。X染色体上のDAX1は、(この遺伝子がSRYによって既に拘禁されていなければ)精巣形成を抑制し、その間に女性化の経路がはじまると考えられている。 DAX1が多い【活発になる?】と、XY補体【?】を持った人でも女性に生まれるのである。Vilainのグループは、もうひとつ、WNT4という遺伝子が、同じく女性形成を促すことを発見した。研究者たちは、この二つの遺伝子がともに、SRYや他の促男性化因子に拮抗して働く事を発見したのである。

 雑誌Bioessayの2006年におけるレビューで、遺伝学者のDavid Schlessingerおよびその共同研究者は、「卵巣形成は、精巣決定と同じように協調したものであり、卵巣化スイッチの存在と一致しているだろう【?】」と報告している。

 最近ではVillainは、脳内の分子レベルでの性別決定因と、それが性同一性に関連するかどうか、研究を進めている。彼は、これまでの理論とは異なり、性ホルモンはそれ自体では神経発生と行動の差異を引き起こさないと確信している。SRYは脳内で表現する【発現する?】と彼は指摘する。これは、遺伝子が脳の性分化に直接に影響することを示唆するものである。彼のラボでは、マウスにおいて、複数の染色体上に、様々な性発現に関する50もの新たな遺伝子候補が同定されている。そのうちの7つは、生殖腺が形成される以前に脳内で様々な働きをはじめる。Vilainのグループは、マウスを使ってこれらの発見を試験し、トランスセクシャルの人々の性‐特異的遺伝子の発現パターンを研究するために、オーストラリアのクリニックと共同研究を行っている。

 この研究は、Villainのこれまでの研究成果同様、非常に扱いが難しい領域に触れるものである。彼は、あくまで自らの発見にとどまることで対応している。「社会的な感覚に意識を向けておくことも必要だ」と彼は話す。性別があいまいな赤ん坊に用いる用語を変更する時期だというジェンダーアクティヴィストと意見を共にするようになったのはここからだ。

 2005年、シカゴで行われたインターセックスコンセンサスミーティングで、彼は、遺伝学者・外科医・心理学者など50人もの専門家の前に立ち、「半陰陽(ヘルマフロディーテ)」や、男性女性「仮性半陰陽」、そして「インターセックス」といった用語は、あいまいで人を傷つけるものだと論じた。新生児の性器・生殖腺の混在に焦点を当てるのではなく、新たな遺伝学的発見の数々をより科学的なアプローチに向けていこうと、彼は皆に訴えた。たとえば、「半陰陽(ヘルマフロディーテ)」ではなく、"disorder of sexual development" (DSD)とすること、"ovatesticular DSD"といった、より正確な用語を用いることを彼は推奨した。

 出席者たちはそれを受けて賛同したが、全員がこの新たな専門用語に好意を持ったわけではない。「障害"disorder"」は屈辱的であるとして「インターセックス」という呼称の方を好む声もあった。ハワイ大学で性同一性の研究しているMilton Diamondだ。彼は、体に何も悪いところを持たない人々にスティグマを与えるものだと非難した。

 しかし、専門用語変更の決定は、ISNA(北米インターセックス協会)代表、Cheryl Chaseの15年に及ぶ悲願を実現するものであった。 両親を落ち着かせ、決定された性別に合致させんがために、人体組織を適合させる外科手術を急がせ、そのことを秘密にしておくということと、Chaseは長年戦ってきたのである。かつてある医者が何故に彼女を「正式なインターセックス」と呼んだのか、思い出し考えるたびに、性の特徴が混在したあり方は、即座に割り切るような問題ではなく、長い人生にわたる医学的状況なのだと、外科医たちが考えるようになってくれることを彼女は切望していた。「私たちは呼称の変更を果たすことができた。これで文化も私たちに少しすばらしいことができるようになるだろう」と彼女は予想する。

 彼女にとってVilainは、ISNAの医学顧問チームの一員として道を共にしてきた大切な協力者である。 ISNAでの仕事では、彼は患者の声に耳を傾けざるをえない。これはこの分野では通常ありえないことだと思うと彼は認めている。彼はDSDという新たな医学用語が、「興味深い副作用」と彼が皮肉る効果を持つことを期待している。この用語の上では、あいまいな性についての臨床判断に、「医科学を用いなければならない」ことになるという側面だ。

 つまり、インターセックスの障害マネージメントについての新たな枠組み合意によって、外科医たちは、患者の性器だけではない、患者のその先を見通さなければならないことになったのだ。このことは、カンファレンスの副オーガナイザーであるPeter A. Leeも同意している。昨年秋に発表されたこの枠組みは、速やかな性別決定を推奨しているが、外科手術についてはより慎重なアプローチを求めている。心理学者や倫理学者も含めた専門家のケアギヴァーからなる総合医療チームとともに、家族も、判断に参加しなければならない。しかし、ペンシルベニア州立大学医学部の小児内分泌学者であるLeeは、データの矛盾をつめていくには、より多くの研究が行く手に控えていると釘を刺す。たとえば外科医たちは、自分たちの選択が患者の人生全般にどのような影響を与えるのか「測定」してこなかった。

 ある金曜の午後、Vilainの机には、白衣と聴診器が論文の周りに無造作に置かれていた。彼の発見が、哲学的な意味以上のものを持つことを思い起こさせてくれるものだ。彼はUCLAインターセックスクリニックで毎月6~8人の患者に会い、オンコールも受ける立場として、2,3時間で行ける範囲の病院にいる赤ん坊について、2件の連絡を受けている。DNA転写の研究に没頭しながらも、Vilainは、自らの発見が人々の人生・命にとって何を意味するのか、その地平にとどまり続けている。



(原文)


When Eric Vilain began his medical school rotation two decades ago, he was assigned to France's reference center for babies with ambiguous genitalia. He watched as doctors at the Paris hospital would check an infant's endowment and quickly decide: boy or girl. Their own discomfort and social beliefs seemed to drive the choice, the young Vilain observed with shock. "I kept asking, 'How do you know?' " he recalls. After all, a baby's genitals might not match the reproductive organs inside.

By coincidence, Vilain was also reading the journals of Herculine Barbin, a 19th-century hermaphrodite. Her story of love and woe, edited by famed social constructionist Michel Foucault, sharpened his questions. He set on a path to find out what sexual "normality" really meant--and to find answers to the basic biology of sex differences.

Today the 40-year-old French native is one of a handful of geneticists on whom parents and doctors rely to explain how and why sex determination in an infant may have taken an unusual route. In his genetic laboratory at the University of California, Los Angeles, Vilain's findings have pushed the field toward not only improved technical understanding but more thoughtful treatment as well. "What really matters is what people feel they are in terms of gender, not what their family or doctors think they should be," Vilain says. Genital ambiguity occurs in an estimated one in 4,500 births, and problems such as undescended testes happen in one in 100. Altogether, hospitals across the U.S. perform about five sex-assignment surgeries every day.

Some of Vilain's work has helped topple ancient ideas about sex determination that lingered until very recently. Students have long learned in developmental biology that the male path of sex development is "active," driven by the presence of a Y chromosome. In contrast, the female pathway is passive, a default route. French physiologist Alfred Jost seemed to prove this idea in experiments done in the 1940s, in which castrated rabbit embryos developed into females.

Terms such as "hermaphrodite" and "intersex" are vague and hurtful Vilain says.

In 1990, while at the University of Cambridge, Peter Goodfellow discovered SRY, a gene on the Y chromosome hailed as the "master switch." Just one base pair change in this sequence would produce a female instead of a male. And when researchers integrated SRY into a mouse that was otherwise chromosomally female, an XX fetus developed as a male.

But studies by Vilain and others have shaped a more complex picture. Instead of turning on male development directly, SRY works by blocking an "antitestis" gene, he proposes. For one, males who have SRY but two female chromosomes range in characteristics from normal male to an ambiguous mix. In addition, test-tube studies have found that SRY can repress gene transcription, indicating that it operates through interference. Finally, in 1994, Vilain's group showed that a male could develop without the gene. Vilain offers a model in which sex emerges out of a delicate dance between a variety of promale, antimale, and possibly profemale genes.

Because researchers have long viewed the development of females as a default pathway, the study of profemale genes has taken a backseat. Over the past few years, though, geneticists have uncovered evidence for active female determination. DAX1, on the X chromosome, seems to start up the female pathway while inhibiting testis formation--unless the gene has already been blocked by SRY. With too much DAX1, a person with the XY complement is born a female. Vilain's group found that another gene, WNT4, operates in a similar way to promote the formation of a female. The researchers discovered that these two work together against SRY and other promale factors. "Ovary formation may be just as coordinated as testis determination, consistent with the existence of an ovarian switch,' " report geneticist David Schlessinger and his collaborators in a 2006 review in the journal Bioessays.

Lately Vilain has been exploring molecular determinants of sex within the brain and whether they may be linked to gender identity. Despite classic dogma, he is certain that sex hormones do not drive neural development and behavioral differences on their own. SRY is expressed in the brain, he points out, suggesting that genes influence brain sexual differentiation directly. His lab has identified in mice 50 new gene candidates on multiple chromosomes for differential sex expression. Seven of them begin operating differently in the brain before gonads form. Vilain's group is testing these findings using mice and is collaborating with a clinic in Australia to study expression patterns of the sex-specific genes in transsexual people.

This work, like much of Vilain's efforts, treads on fairly touchy ground. He copes by sticking to his findings conservatively. "You also have to be aware of the social sensibilities," he explains. Accordingly, he has come to agree with some gender activists that it is time to revamp the vocabulary used to describe ambiguously sexed babies.

At the 2005 Intersex Consensus Meeting in Chicago, he stood before a group of 50 geneticists, surgeons, psychologists and other specialists and argued that terms such as "hermaphrodite," male or female "pseudohermaphrodite" and "intersex" were vague and hurtful. Instead of focusing on a newborn's confusing mix of genitals and gonads, he urged his colleagues to let the explosion of new genetic findings point toward a more scientific approach. Rather than using "hermaphrodite," for instance, he recommended referring to a "disorder of sexual development" (DSD) and applying the more precise term of "ovatesticular DSD."

Although the attendees eventually concurred, not everyone likes the new terminology. Some who prefer "intersex" feel that a "disorder" is demeaning. Milton Diamond, who studies sex identity at the University of Hawaii, complains that it stigmatizes people who have nothing wrong with their bodies.

But the decision to change nomenclature realizes a 15-year dream for Cheryl Chase, executive director of the Intersex Society of North America (ISNA). Chase has fought for years against secret, rushed surgeries intended to comfort parents and adjust anatomy to match an assigned social gender. Recalling how a doctor once called her "formerly intersex," she hopes physicians will begin to see mixed sex characteristics as a lifelong medical condition instead of a problem to be quickly fixed. "Now that we've accomplished the name change, culture can accomplish a little magic for us," she predicts.

For her, Vilain has been a valued ally in the process as a member of ISNA's medical advisory board. The job, he admits, forces him to listen to patients, a practice he considers unusual for the field. He expects the new, medicalized terminology for DSD to have what he describes wryly as "an interesting side effect," in which "medical science should apply" to clinical decisions about ambiguous sex.

Indeed, the new consensus statement on managing intersex disorders encourages physicians to see beyond a patient's sex organs, agrees conference co-organizer Peter A. Lee. The statement, released last fall, recommends speedy gender assignment but a more cautious approach to surgery. The family should participate in decision making, along with a multidisciplinary team of caregivers in specialties that include psychology and ethics. But Lee, a pediatric endocrinologist at the Penn State College of Medicine, cautions that much more work lies ahead to fill in data gaps. For instance, physicians have not measured how their choices affect patients over a lifetime.

On one Friday afternoon Vilain's white coat and stethoscope lay tossed amid the papers on his desk, a reminder that his discoveries have more than philosophical meaning. He sees six to eight patients in the U.C.L.A. intersex clinic every month, and in his on-call capacity, he receives two calls about babies in the hospital within the space of a couple of hours. Even while immersed in the workings of DNA transcription, Vilain stays grounded in what his findings mean for people's lives.