Nex Anex DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)情報サイト

ネクスDSDジャパンの別館です。ここでは,DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患)の学術的な情報を発信していきます。

DSDsとキャスター・セメンヤ 排除と見世物小屋の分裂②「DSDs:体の性の様々な発達」

CAHで生まれた女性ジャネットさん

 

 2020年12月に発行された『ジェンダー法研究7号』(信山社浅倉むつ子先生・二宮周平先生責任編集)に掲載いただいた,ネクスDSDジャパン主宰・日本性分化疾患患者家族会連絡会代表ヨ ヘイルによる論考を,責任編集者の先生と信山社様のご厚意により,オンライン上で公開する許可をいただきました。

 一部情報をアップデートし,発行時に掲載できなかった画像資料などを加えています。

 

 大変残念なことですが,DSDsに対しては大学のジェンダー論を教えている先生方,LGBTQ等性的マイノリティのみなさんやアライのみなさん,性教育に携わる先生方,お医者様などでも,根深い誤解や偏見があります。

 当事者・家族のみなさんにはつらい描写もありますが,広く多くの方にお読みいただければと願っております。

 

DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患インターセックス)とキャスター・セメンヤ

排除と見世物小屋の分裂

 

目次

 

 

Ⅱ.DSDs:体の性の様々な発達

 

 DSDs:体の性の様々な発達(性分化疾患インターセックスの体の状態)は、体の性の発達に関わる3040種類ほどの1様々な体の状態・疾患をカバーする包括用語に過ぎない2DSDsは、2006年のシカゴコンセンサス3以降、医学的には染色体構成を元に分類されているが、ここでは当事者・家族の体験、すなわちDSDsの判明時期に沿って代表的な体の状態を概説する。

1Intersex Human Rights Australia, Intersex for allies. 2020930日取得)2020年現在では「3040種類」とされている。CAHAIS,ロキタンスキー症候群,ターナー症候群など,現実のDSDs各体の状態ごとのサポートグループのレベルでは,8~9つほどのグループがある。

 

 

1.出生時に判明するDSDs:性別判定が必要な外性器の形状で生まれる新生児

 

 陰核/陰茎の形状やサイズ、尿道口の位置等が一般的なものとは異なる状態4等で、性別の判定に然るべき検査が必要になる女児・男児が、約4,5005,500人に1人いる5(軽度尿道下裂を除く)。

4医学的には”ambiguous genitalia”(曖昧な外性器)と呼ばれるが、社会ではまるで性別が曖昧であるかのような誤解・偏見があるため、当事者や家族からは批判が多い。代替案としては、”Different genitalia(形が違う外性器)”や”Nontypical genitalia(非定型的な外性器)”などがある。Lin-Su K,Lekarev O, Poppas DP, Vogiatzi MGCongenital adrenal hyperplasia patient perception of disorders of sex development nomenclatureInt J Pediatr Endocrinol. 2015;2015(1):9Ellie Magritte,Working together in placing the long term interests of the child at the heart of the DSD evaluation, J Pediatr Urol. 2012 Dec;8(6):571-5

5Hughes・前掲注(1):「2000人に1人」がDSDsを持つ人々全体の割合のように言われることがあるが、この数字は元々出生時に性別判定が必要な新生児の割合であり、DSDs全体の数字ではない。また、この数字も精査され、現在では4,5005,500人に1人とされている。

 社会では「男でも女でもない」新生児が生まれるかのような偏見があるが、性別判定が必要な新生児で最も多いのは、胎児期からの副腎皮質異常によって陰核肥大や陰唇癒着、共通尿生殖洞(尿道口が内部の膣の途中に開いた状態)などが見られる、先天性副腎皮質過形成(CAH)の女児である。副腎皮質の異常によって胎児期より副腎皮質由来のテストステロンが多く産生されるために起きる疾患である。陰核の肥大や陰唇癒着の状態像からは一見性別が分かりにくいが、外性器周囲の色素沈着の所見や然るべき一連の検査で、染色体がXX、性腺が卵巣で、子宮・膣があることが確認され、該当の遺伝子も特定されることで女児であることが判明する6

6この副腎の異常は、元はコルチゾールという命に関わるステロイドホルモンの欠乏を起こすものであるため、現在日本では新生児マススクリーニングの一つに入っている。コルチゾール欠乏により、感染症やケガ、精神的ストレスによって引き起こされる副腎クリーゼは何もしないと死亡に至るため、一生の服薬治療が必要になる。日本では副腎クリーゼ緊急時のステロイドホルモンの自己注射が認められてこなかったが、20204月より認可された。また、CAHにおけるテストステロン過多は、コルチゾールが産生されないことによる副産物に過ぎない。命を保つためのコルチゾールを補充することで、副腎皮質からのテストステロン産生は機序的に減少することになる。:一般社団法人日本内分泌学会『急性副腎皮質機能不全(副腎クリーゼ)時のヒドロコルチゾンコハク酸エステルナトリウム製剤の在宅自己注射指導管理料の適応取得について』(2020930日取得)

 

CAHで生まれた女性ジャネットさん

CAHで起きる副腎ショックに対応するためのオランダの啓発動画

 次に多いのが、尿道口がペニスの先にまで達せずペニスの下側、あるいは付け根に開いた尿道下裂の男児である。軽度の場合は性別判定にまで至らないが、高度尿道下裂の場合、陰茎が小さく、下方に彎曲し、二分陰嚢かつ停留精巣を伴う事が多く、これも一見では性別が分かりにくく、然るべき検査の上で男児であることが判明する。他にも還元酵素Ⅱ型欠損症・17β脱水酸化酵素Ⅲ型欠損症男児、デニス・ドラッシュ症候群男児、部分型アンドロゲン不応症、性腺異形成などが判明することがある。

デニス・ドラッシュ症候群で生まれた男の子シェイファ君

 また、DSDsを性別(gender)の問題だと誤解していたり、sex differentiationを「男女の性別の分化」と誤解している人には見過ごされやすいが7、膀胱を含めた下腹部の器官が体外に露出した状態で生まれる総排泄腔外反症の女児・男児(女児の場合は子宮が二分していることもある)、膣口・尿道口と肛門が総排泄腔から分化しないまま生まれる総排泄腔遺残症の女児等もDSDsに含まれる8

7sex differentiation(性分化)とは、DSDs専門医療では、たとえば「iPS細胞(人工多能性幹細胞)が、神経や心筋、肝臓、膵臓などの各種器官に『分化』する」というように、体の性に関わる各種器官(性腺や膣・子宮、外性器など)に『分化』するということを指し、男女の身体への分化という単純な概念を表すのではない。

8総排泄腔外反症・遺残症両者とも,まずは人工肛門尿道の確保が必要となり、思春期以降など、男児の場合は陰茎形成術を行うか、女児の場合は膣・陰唇形成を行うか本人が決めることとなる。

 

 総排泄腔外反症の女性

 

 当事者団体も当初から訴えているとおり、DSDsは性別(gender)の問題ではなく、あくまで体の性の構造や機能に関わる状態群なのである9

 このような体の状態の場合、外性器の形状のみでCAH女児が男児と誤判定されたり、ジョン・マネープロトコル10で知られるとおり、陰茎/陰核の長さによって性別が「割り当て」され、小陰茎や総排泄腔外反症で男児と判定される新生児が陰茎切除・精巣摘出の上で女児に育てられるということが現実に起き11、たとえば総排泄腔外反症男性の場合、その約半数が性別違和を抱える結果となっていた12

10John Colapinto, As Nature Made Him: The Boy Who Was Raised As A Girl. Harper Perennial,2000(村井智之訳『ブレンダと呼ばれた少年―ジョンズ・ホプキンス病院で何が起きたのか』無名舎,2000年).ジョン・マネー1960年代を中心に、特にインターセックストランスセクシュアルの研究から、性科学の第一人者と呼ばれた性心理学者。「性的嗜好sexual preference)」を「性的指向sexual orientation)」に言い換え、トランスセクシュアリズム(後の「性同一性障害」の概念)の人々やDSDsを持つ人々に対して、言語学で使われていた「ジェンダーgender)」を「性別同一性」等の意味ではじめて援用する。マネーの理論は、生まれて18カ月以内の子どもの性自認は中立であり、24カ月までに社会的に獲得された性別同一性は不変のものとなるというもので、この理論のもと、割礼手術の事故でペニスを失った一卵性の双子男児の一方に対し、このままでは男性としての性別同一性が確立できないとし、精巣摘出・女性ホルモン投与の上、事故や「治療」のことは本人に一切隠した上で女児として育てることを勧め、両親もそれに従う。マネーはその後、この子どもが順調に女の子として育っており、性の分化において、生物学的な要素より環境に優位性があることを証明する揺るぎない証拠だとし、トランスセクシュアリズムの人々に対しては、性別同一性を変えることは不可能で、むしろ身体の方を自認する性別に合わせる方が良いとし、現在に言う「性別適合手術」を進める上では大きな原動力となり、また女性学では、いわゆる「Nature vs. Nurture(生得か環境か)論争」の中で、「男らしさ・女らしさ」あるいは性自認でさえ決して生まれによって決まるものではなく、社会的に構築されていくものだという有力な証左・象徴として繰り返し引用されていく。しかし1980年代になって、この少年は女の子として扱われることに一度として満足せず、両親に真実を打ち明けられた日から、元の男性で生活をしていることが明らかになる。このケースの結果は、性同一性障害トランスジェンダーの人々には、今度は「性の自己決定権」の必要性の象徴例として取り上げられるようになる。2004年にこの男性は自殺。しかしマネーによるプロトコルDSDsを持つ新生児への適応(新生児で陰茎を引っ張って2.5cm以上なければ、切除の上女児として育てる、女児で陰核が2.5cm以上あれば、陰核減縮術を行う)はその後も続いた。このマネーのプロトコル自体や、それに対する社会の毀誉褒貶した受け止めについては、この少年やDSDsを持つ人々の全体的な人間性がいかに没却・「切除」されてきたかを考える重要な点であると思われる。

11マネーの実験は,言うなれば、人工的に性同一性障害を作るようなものである。

 

 しかし現在では分子生物学の発展等により、その状態像がどのような機序から呈しているか判明するようになり、外性器のサイズや染色体の構成、性腺の種類などの何か一つの指標に強迫的に拘泥することなく、女児か男児かの総合的な「判定」が、遺伝子診断を含めた然るべきいくつかの検査によって可能になっている。たしかに一部判定が難しい体の状態もあるが、マネー・プロトコルによる「割り当て」ではなく、難しいケースでも総合的な「判定」13を行えば、現実には大多数の人々は出生時に判定された性別に違和を持つことはない14

13.「性別の割り当て」という表現は、現在トランスジェンダーの人々の性別同一性に関して政治的な運動で使われることが多いが、DSDsインターセックスでの、以前現実に行われた「割り当て」や、現在のDSDs医療の然るべき一連の検査による「判定」とは全く中身も意味も異なるため、注意が必要である。(本論では、以前のマネープロトコルの時代と区別するために、現在の然るべき検査の上でのものを性別「判定」と表現する)。

 

 実は、当事者団体はDSDsを持って生まれた新生児の男女の性別判定には当初から反対していない。求めているのは、マネー・プロトコルのような誤った「割り当て」ではない、エヴィデンスに基づく「男性・女性の性別判定」、女性か男性かの出生登録、また外性器の美容的外科手術等実施の自己決定なのだが15、「男女どちらでもない第三の性別を求めている」という偏見・誤解がアカデミズムの領域も含め未だに根強い。

15日本インターセックスイニシアティヴ『インターセックスの子どもは男の子、女の子どちらに育てたらいいですか?』、ISNA“How can you assign a gender (boy or girl) without surgery?インターセックスの子どもたちは、すべての人々と同じく成長して異なるsexgenderだというアイデンティティを持つ可能性もあるという認識のもとに、インターセックスの子どもたちも女性または男性として登録すること。」 Public statement by the third international intersex forum. Malta. December. 2013. 2020930日取得):外科手術実施の是非を性別(判定)の問題と混同するのは、後述する「社会的生物学固定観念」が強い故だと思われる。

 

 

2.思春期前後に判明するDSDs:主に女性の原発無月経から判明するDSDs

 

 DSDsは思春期前後に女性の原発無月経等で判明するパターンが多く、まず代表的なものは女性のターナー症候群である。低身長などの成長障害や二次性徴不全、あるいは女性不妊から、染色体の構成が45,X、卵巣が機能不全(幼児期での早期閉経)であることが判明する16

16ターナー女性には子宮は存在するため、現在、第三者卵子提供とパートナーの男性の精子との体外受精によって出産も可能となっている。

 

ターナー症候群の女性・女の子たち

 次に多いのがロキタンスキー症候群(MRKH)の女性で、染色体はXX、性腺は卵巣で一般的な女性の体の状態だが、生まれつき子宮と膣上部が発達していなかったことが判明する。

17たとえばロキタンスキー症候群の女性は、医学的には原発無月経に入っても、卵巣はあるため生理周期があり、彼女たちにとっては卵巣があることは非常に重要である場合が多い。DSDsと一言で言っても、体の状態ごとに全く体験が異なることに注意しなければならない。また、ロキタンスキー症候群については、スウェーデンを始めとした海外各国で、近親者や脳死者から提供を受けた子宮移植が行われており、ロキタンスキー症候群を持つ女性の卵巣から卵子を採取し、男性パートナーの精子体外受精をして、移植した子宮に戻すことで、子どもも多く生まれている。:木須伊織『子宮移植の現状と展望』Organ Biology VOL.25 NO.1 2018 35-40

 

ロキタンスキー症候群の女性たち

 また、女性のアンドロゲン不応症(AIS)と呼ばれる体の状態が判明することもある。染色体の構成や性腺の種類が、一般的には男性に多いXY・精巣であるが、体の細胞のレセプター欠損により男性に多いアンドロゲンに一部もしくは完全に反応せず、この場合生来的に女性に生まれ育つのである。XY染色体女性には他にも,卵巣・精巣に分化する前の元性腺が胎児期早期に退縮し,アンドロゲンの影響を受けないため,やはり女性に生まれ育つスワイヤー症候群の女性等もいる。

AISが判明した女性ケイティさん

 原発無月経等から判明するDSDsの診断には、大きなトラウマを受ける女性も少なくない。彼女たちが最もショックを受けるのは何よりも不妊の事実で、これはがんで子宮や卵巣、乳房を失った女性の多くの、女性としての自尊心の喪失以上のものになりえる。

 思春期前後に判明するDSDsは他にも、女性の場合で二次性徴不全や原発無月経から性腺機能低下症、男性の場合で二次性徴不全から性腺機能低下症や性腺異形成が判明することもある。更に男性でエストロゲンが産生され乳房発達が見られたり、女性で声域が低くなる変声や体毛発達、性器肥大などから、卵精巣性DSDが判明することもある。

卵精巣性DSDサポートグループのみなさんからのメッセージ漫画

 

 

3.XY染色体バリエーション:男性不妊や新型出生前診断での判明

 

 「男性=XY、女性=XX」というのが現在の一般的な理解と思われるが、これは既に基礎的な知識に過ぎなくなっている。確かに大多数の男性の体の染色体はXY、大多数の女性の体の染色体はXXだが、XXY染色体やXXYY染色体の人も生来的に男性に生まれ育ち、XYY染色体の男性、XXX染色体の女性もいる。

 

クラインフェルター症候群が判明した男性マイクさん

XXYY症候群が判明した男の子エイデン君

 女性・男性の体の違いを決めるのはXY染色体の構成数という誤解が多いが、通常はY染色体上にあるSRY遺伝子にあることが既に分かっている。たとえばだが、XX染色体の個体でもSRY遺伝子が付随する場合は男性に生まれ育つ。1990年のSRY遺伝子の発見以降、性腺の分化、外性器、膣や子宮の形成等の体の性の発達には、AIS女性の場合のX染色体上のAR遺伝子の変異など、恐らく約100以上の遺伝子が関係していると言われている18DSDsの先端医療は、その体の状態がどのような機序で起きているのか、染色体の数ではなく、既に遺伝子の時代になっているのだ。

 XY染色体バリエーションの場合、現在海外では、XXY男性やXXsry+)男性の場合は男性不妊治療から、XXY男児を含めたXY染色体バリエーションやターナー症候群女児などは、新型出生前診断で判明することが多くなってきている。

 

新型出生前診断に対するクラインフェルター症候群サポートグループの代表からのメッセージ

 

次の章「第3章:オランダ・ベルギーの調査報告で指摘されているDSDsに対する社会的偏見」

nexdsd.hatenablog.com

 

 

1Intersex Human Rights Australia, Intersex for allies. 2020930日取得)2020年現在では「3040種類」とされている。CAHAIS,ロキタンスキー症候群,ターナー症候群など,現実のDSDs各体の状態ごとのサポートグループのレベルでは,8~9つほどのグループがある。

2Wisniewski A.B. Chernausek S.D. Kropp.B.P, Disorders of Sex Development: A Guide for Parents and Physicians. A Johns Hopkins Press Health Book, 2012.

3Hughes・前掲注(1

4医学的には”ambiguous genitalia”(曖昧な外性器)と呼ばれるが、社会ではまるで性別が曖昧であるかのような誤解・偏見があるため、当事者や家族からは批判が多い。代替案としては、”Different genitalia(形が違う外性器)”や”Nontypical genitalia(非定型的な外性器)”などがある。Lin-Su K,Lekarev O, Poppas DP, Vogiatzi MGCongenital adrenal hyperplasia patient perception of disorders of sex development nomenclatureInt J Pediatr Endocrinol. 2015;2015(1):9Ellie Magritte,Working together in placing the long term interests of the child at the heart of the DSD evaluation, J Pediatr Urol. 2012 Dec;8(6):571-5

5Hughes・前掲注(1):「2000人に1人」がDSDsを持つ人々全体の割合のように言われることがあるが、この数字は元々出生時に性別判定が必要な新生児の割合であり、DSDs全体の数字ではない。また、この数字も精査され、現在では4,5005,500人に1人とされている。

6この副腎の異常は、元はコルチゾールという命に関わるステロイドホルモンの欠乏を起こすものであるため、現在日本では新生児マススクリーニングの一つに入っている。コルチゾール欠乏により、感染症やケガ、精神的ストレスによって引き起こされる副腎クリーゼは何もしないと死亡に至るため、一生の服薬治療が必要になる。日本では副腎クリーゼ緊急時のステロイドホルモンの自己注射が認められてこなかったが、20204月より認可された。また、CAHにおけるテストステロン過多は、コルチゾールが産生されないことによる副産物に過ぎない。命を保つためのコルチゾールを補充することで、副腎皮質からのテストステロン産生は機序的に減少することになる。:一般社団法人日本内分泌学会『急性副腎皮質機能不全(副腎クリーゼ)時のヒドロコルチゾンコハク酸エステルナトリウム製剤の在宅自己注射指導管理料の適応取得について』(2020930日取得)

7sex differentiation(性分化)とは、DSDs専門医療では、たとえば「iPS細胞(人工多能性幹細胞)が、神経や心筋、肝臓、膵臓などの各種器官に『分化』する」というように、体の性に関わる各種器官(性腺や膣・子宮、外性器など)に『分化』するということを指し、男女の身体への分化という単純な概念を表すのではない。

8両者ともまずは人工肛門尿道の確保が必要となり、思春期以降など、男児の場合は陰茎形成術を行うか、女児の場合は膣・陰唇形成を行うか本人が決めることとなる。

9The Intersex Society of North America (ISNA): www.isna.org/ 2020930日取得)

10John Colapinto, As Nature Made Him: The Boy Who Was Raised As A Girl. Harper Perennial,2000(村井智之訳『ブレンダと呼ばれた少年―ジョンズ・ホプキンス病院で何が起きたのか』無名舎,2000年).ジョン・マネー1960年代を中心に、特にインターセックストランスセクシュアルの研究から、性科学の第一人者と呼ばれた性心理学者。「性的嗜好sexual preference)」を「性的指向sexual orientation)」に言い換え、トランスセクシュアリズム(後の「性同一性障害」の概念)の人々やDSDsを持つ人々に対して、言語学で使われていた「ジェンダーgender)」を「性別同一性」等の意味ではじめて援用する。マネーの理論は、生まれて18カ月以内の子どもの性自認は中立であり、24カ月までに社会的に獲得された性別同一性は不変のものとなるというもので、この理論のもと、割礼手術の事故でペニスを失った一卵性の双子男児の一方に対し、このままでは男性としての性別同一性が確立できないとし、精巣摘出・女性ホルモン投与の上、事故や「治療」のことは本人に一切隠した上で女児として育てることを勧め、両親もそれに従う。マネーはその後、この子どもが順調に女の子として育っており、性の分化において、生物学的な要素より環境に優位性があることを証明する揺るぎない証拠だとし、トランスセクシュアリズムの人々に対しては、性別同一性を変えることは不可能で、むしろ身体の方を自認する性別に合わせる方が良いとし、現在に言う「性別適合手術」を進める上では大きな原動力となり、また女性学では、いわゆる「Nature vs. Nurture(生得か環境か)論争」の中で、「男らしさ・女らしさ」あるいは性自認でさえ決して生まれによって決まるものではなく、社会的に構築されていくものだという有力な証左・象徴として繰り返し引用されていく。しかし1980年代になって、この少年は女の子として扱われることに一度として満足せず、両親に真実を打ち明けられた日から、元の男性で生活をしていることが明らかになる。このケースの結果は、性同一性障害トランスジェンダーの人々には、今度は「性の自己決定権」の必要性の象徴例として取り上げられるようになる。2004年にこの男性は自殺。しかしマネーによるプロトコルDSDsを持つ新生児への適応(新生児で陰茎を引っ張って2.5cm以上なければ、切除の上女児として育てる、女児で陰核が2.5cm以上あれば、陰核減縮術を行う)はその後も続いた。このマネーのプロトコル自体や、それに対する社会の毀誉褒貶した受け止めについては、この少年やDSDsを持つ人々の全体的な人間性がいかに没却・「切除」されてきたかを考える重要な点であると思われる。

11言うなれば、人工的に性同一性障害を作るようなものである。

12Reiner WG, Gearhart JPDiscordant Sexual Identity in Some Genetic Males with Cloacal Exstrophy Assigned to Female Sex at Birth. N Engl J Med. Jan 22;350(4):333-41, 2004

13「性別の割り当て」という表現は、現在トランスジェンダーの人々の性別同一性に関して政治的な運動で使われることが多いが、DSDsインターセックスでの、以前現実に行われた「割り当て」や、現在のDSDs医療の然るべき一連の検査による「判定」とは全く中身も意味も異なるため、注意が必要である。(本論では、以前のマネープロトコルの時代と区別するために、現在の然るべき検査の上でのものを性別「判定」と表現する)。

14Callens N・前掲注(1124

15日本インターセックスイニシアティヴ『インターセックスの子どもは男の子、女の子どちらに育てたらいいですか?』、ISNA“How can you assign a gender (boy or girl) without surgery?インターセックスの子どもたちは、すべての人々と同じく成長して異なるsexgenderだというアイデンティティを持つ可能性もあるという認識のもとに、インターセックスの子どもたちも女性または男性として登録すること。」 Public statement by the third international intersex forum. Malta. December. 2013. 2020930日取得):外科手術実施の是非を性別(判定)の問題と混同するのは、後述する「社会的生物学固定観念」が強い故だと思われる。

16ターナー女性には子宮は存在するため、現在、第三者卵子提供とパートナーの男性の精子との体外受精によって出産も可能となっている。

17たとえばロキタンスキー症候群の女性は、医学的には原発無月経に入っても、卵巣はあるため生理周期があり、彼女たちにとっては卵巣があることは非常に重要である場合が多い。DSDsと一言で言っても、体の状態ごとに全く体験が異なることに注意しなければならない。また、ロキタンスキー症候群については、スウェーデンを始めとした海外各国で、近親者や脳死者から提供を受けた子宮移植が行われており、ロキタンスキー症候群を持つ女性の卵巣から卵子を採取し、男性パートナーの精子体外受精をして、移植した子宮に戻すことで、子どもも多く生まれている。:木須伊織『子宮移植の現状と展望』Organ Biology VOL.25 NO.1 2018 35-40

18Quigley C.A: Disorders of Sex DevelopmentWhen to Tell the Patient. ,20092020930日取得)