nexdsd JAPAN 性分化疾患情報サイト

体の性の様々な発達(性分化疾患)に関する情報を発信します。

What’s Changed in the Care of Children with Atypical Sex?

アリス・ドレガー

非典型的な体の性を持つ子どもたちのケアはどのように変化したか?

 非典型的な性を持つ人々への(誤った)医学的治療について、1998年私がHastings Center Reportで書いた小論、『「あいまいな性器」かアンビヴァレントな医療か?インターセクシュアリティ治療の倫理的問題』を再版しないかと、毎年、生命倫理のテキストブックの編集者がそれぞれにリクエストしてきているようです。この小論は、あの領域ではじめて、倫理的批判を表明したものであり、それは今でも十分説得力を持つものであり続けているわけですが、今年、また別の再版リクエストを受け出版されるのを機に、改訂をすることにしました。改訂の権利は私にありますので、ここで少しご紹介したいと思います。

 新しい論を加えるだけではないのには、3つ理由があります。(1)今日、非典型的な身体的性への医学的ケアシステムは流動的になっており、現在行われている様々な医療行為を正確に把握することは難しく、できたとしてもすぐさま時代遅れになってしまうということ。(2)1998年に私が出した倫理的批判は、医療ケアの一部が変化してきていても、まだ十分参照する価値があるということ。(3)1998年の小論に2011年の終章へという流れにすれば、エヴィデンスと倫理に共感してくれる(医療行為者を含む)患者支援者の努力によって、医療行為が更に良くなっていくという予感を読者に与えてくれるかもしれないということです。

 さまざまな性のあり方は、1998年以来大きく世間に知られるようになりました。このことは、インターセックスの医学的治療に関心を持っていた人たちにも重要な機会となりました。なぜなら、一般に知識が広まることで、医療従事者の考え方も変化してきたからです。ゲイ、レズビアンバイセクシュアル、トランスジェンダーの権利運動も、世間の人々や医療従事者の非典型的な身体的性に対する考え方を変えてきました。1990年代初頭では、医療従事者の多くがインターセックスはタブーだと信じ、そのために後ろめたさと隠蔽の立場から行動していたのです。

 今日、患者や両親が、インターセックスについての知識や、セクシュアルマイノリティの権利運動に影響された知識をバックグラウンドに持ってきていることが多いということに、医療従事者も気づいてきています。その結果、今日インターセックスは、ほとんどの場合、後ろめたさや秘密、ホモフォビアやトランスフォビアなしで扱われるようになっているようです。

 1998年以降広く一般に知られるようになったのは、Max BeckやHoward Devore、そしてBo Laurent (Cheryl Chaseとしても知られています)など、インターセックス権利運動のリーダーを扱ったテレビ番組も含め、インターセックスのちゃんとした話がメディアの注目を集めたことも大きいでしょう。2000年には、John Colapintoのすばらしい著書、『As Nature Made Him(ブレンダと呼ばれた少年)』で、私が1998年の小論の最初に、マネーがつけていた偽名(“John/Joan”)で紹介した男性、David Reimerのすべての物語が語られました。2004年、悲しいことにReimerは自殺し、その結末は、Reimerが後ろめたさや時代遅れの性規範、そして嘘に基づいた問題だらけの医療システムによって損なわれたからだという印象を一般に与えました。

 2002年には、Jeffrey Eugenidesの小説『Middlesex(ミドルセックス)』が、インターセックスの5α還元酵素欠損症を持つ人のライフストーリーを―その中には、John Moneyのような医者との出会いも入っていました―物語ります。『Middlesex』は300万部以上売れ、Oprah’s Book Club(訳者注:アメリカで有名なブックレビューの番組)にも登場し、そして奇妙なことに、フィクションのお話にも関わらず、なぜか多くの医者がインターセックスの治療について考え直すことにつながっていったようです。

 2009年、ベルリンの国際競技で、性別疑惑を持たれた南アフリカのまだ歳若い選手、Caster Semenyaが(本人には不本意にも)国際的な注目をあびました。スポーツ界での性別検査への反応で初めて、本当に大きな―そして完全にオープンな―国際的議論が巻き起こり、多くのコメンテイターが、Semenyaがスポーツオフィシャルや医者から受けた扱いに抗議しました。彼女のケースは、国際オリンピック機構や国際陸上競技協会(それより小さなスポーツ組織も)がそれぞれのポリシーを改訂する動きとなりました。一般のコメンテイターたちの共通テーマは、性的に非典型的な選手も“人”として完全に尊重して扱う権利に集約されていきました。これは大きな前進を象徴しています。

 医療従事者が、両親や患者に、それぞれに関わるインターセックスの状態について全ての詳細を伝えることが今日更に多くなっているようです。今では私がサポートグループを訪問すると、自分の診断や完全な医療記録を知っているティーンエイジャーに会ったり、自分のまだ幼い子どもに、その子の診断や医療記録をオープンに話している両親に会ったりします。

 これはもっともラディカルで歓迎すべき進歩です。医療従事者の中には、患者や家族に、それぞれの疾患のサポートグループを積極的に勧める人もいますが、多くはそこまで行っていません。彼らが私によく言うのは、間違った情報や「間違った態度」を患者がサポートグループで拾ってくるのではないかと心配しているということです。Androgen Insensitivity Syndrome Support Group(AISのサポートグループ)やHypospadias and Epispadias Association(尿道下裂・尿道上裂のサポートグループ)といった良質なサポートグループもたくさんあるんですけどね。

 1998年以降、医療行為で恐らくもっともはっきりした変化は、「インターセックス(中間性)」という用語や「hermaphrodite(半陰陽:両性具有・男でも女でもない性)」を基にした用語(「male pseudohermaphrodite(男性仮性半陰陽)」など)から、「disorders of sex development (DSD)(性分化疾患)」への専門用語の変更です。私はこの変更を進めたひとりです。なぜなら、

・多くの医療従事者は、尿道下裂や、CAH由来の性別不明外性器といった状態を「インターセックス」というものと認識することを拒否していたため、「インターセックス」という用語を使っている間は、共通の問題と切実に必要とされる共通の解決に取り組んでもらうことはできなかったから。 

・多くの両親は「インターセックス」という用語に脅かされていて、外科手術をすることでなんとかそれを切り離そうとしていたから。 

・「インターセックス」という用語はクィアLGBT等の性的マイノリティ)権利運動によって政治化されてしまっていて、体の性が非典型的な子どものケアへの疑問を更に混乱させるような、クィア権利運動に回収されてしまったから。 

トランスジェンダー活動家の多くが(インターセックスではないのに)自分たちのことを「インターセックス」と名乗り始め、「インターセックス」の意味が変わってしまったからです。

 「disorders of sex development」という用語は、2006年シカゴでの、主要な北アメリカとヨーロッパの小児内分泌学会によるコンセンサス会議で正式に採用されました。DSDとは、「染色体、生殖腺あるいは解剖学的性別の発達が非典型的な先天的状態」を意味します。私と同僚たちはまた、2005年に編集した2つのハンドブックでも「DSD」という用語を使いました。ひとつはDSDの小児科ケアの医療ガイドライン、もうひとつは両親のためのハンドブックです。

 小児内分泌学グループの「シカゴコンセンサス」は、いくつかの医療行為に関して、とても大きな前進を果たしています。たとえば、コンセンサスの文書では、「DSDの専門知識を持ったメンタルヘルスケアスタッフが提供する心理社会的ケアが、肯定的な適応を促すマネージメントの中心となるべきである」と謳っています。またコンセンサスでは性器手術の危険性を認め、少なくとも陰核形成術に対しては、「ただ単なる美容的外見ではなく、機能的転帰が強調されねばならない」としています。

 更にコンセンサスでは、完全性アンドロゲン不応症のケースでは以前考えられていたよりも精巣腫瘍はあまり見られないというデータを示し、腫瘍の徴候が見られないCAISの女性には(摘出してホルモン補充療法を行うのではなく)経過観察することも合理的な選択肢であろうと示唆しています。これは、医療従事者が、非典型的な(しかし健康上の問題のない)性組織について、怖がるのではなく、患者の中に置いておいて、じっくりと長い期間をかけてデータを集めるようになっているというあらわれです。*1

 専門家はまた、ペニスが小さい(マイクロペニス)の男の赤ん坊の性別を変えることはしないようになってきています。まだ幼い子どもに陰唇形成術を勧めることもやめるようになっています。早期の陰唇形成術は失敗することが多く、思春期に大幅な再手術を必要とすること、そして、陰唇拡張器―よちよち歩きの頃からの陰唇拡張をしなければならなくなった子どもや両親を傷つけるかもしれないような―を必要とするためです。*2

 まだ公開はされていませんが、ミシガン大学の小児心理学者David Sandbergの調査データでは、DSDケアについての医療従事者の考え方は、どのような治療を行うのかという以上に、意識の変化が行動の変化を上回っていることが多いと示唆しており、これは希望の持てるものでしょう。私が一番うれしいのは、DSDの医学論文が、性別や性的指向は生得か環境かなんたらかという議論を中心としたどうでもいい話から、後ろめたさや秘密、そして医原性のトラウマをいかに軽減していくかという重要な話が中心となっていったことです。

 インフォームドコンセントと皆で決定を共有していくアプローチ(これは両親に本当の権利があります)*3は、それぞれのケースでは実際どのようなものになるのかという本質的な議論も多くなっています。2008年、Intersex Society of North America(ISNA)が解散してから、医療改革の推進をより活発に行なっていく2つの組織が、Accord Alliance (DSDへの進歩的なチームケアを実行していくことに焦点を当てた組織)と、Advocates for Informed Choice (非典型的な身体的性を持った人とその両親の権利を守るための法的なツールを用いることを中心とした組織)です。

 性的な変異を持った子どもへの「モンスターアプローチ」が過去の歴史となったと、いつか報告が出来ればと私は願っていますが、現在でも未だ、子どもたち(そしてその母親)には、権利という点で特殊な扱いをされるリスクが残っているのを目にします。たとえばですが、最近私や同僚たちは、女の子たちが性別不明外性器を持って生まれないようにと、何百もの妊婦に、同意なしに、リスクの大きい、ちゃんと管理もされていない医学実験が何年にもわたって行われているようだということに光を当てています。*4

 また私たちは、最年少で6歳の、外科手術に納得、同意するにはまだ十分ではない時点で、外見的な理由で陰核減少術を受けさせられた女の子に行われた「クリトリス感覚テスト」に関心を深めています。このテストには、外科医が意識のある女の子の性器を、綿棒や「医学的バイブレーター装置」で触り、触られて気持ちいいかどうかを尋ねるというものも含まれていました。

 他にもたくさんの女の子がそんな行為にさらされているとは想像しがたいことです。もっとも気味が悪いのは、この最近の話についてコメントする人の中には、性別不明外性器を持った女の子は普通じゃないのだから、こんな異常な治療でも構わないんじゃないかと論じようとした人もいるということです。このような態度が示唆するのは、まだまだ道は長い、ということでしょう。

*1:訳者注:それまでは性別に合わない性器は切除することが適当とされ、理由の一つに未分化性腺の悪性腫瘍化リスクが挙げられていた。しかし一律に切除という方針のために、個別の疾患ごとの悪性腫瘍化リスクが調査されることがなかった。現在では調査が行われ、CAISはこのような結果が出ているが、PAISやスワイヤー症候群、混合性性腺形成不全などは悪性腫瘍化リスクが非常に高いことも一方で判明している。

*2:訳者注:1950年代からのマネーのガイドライン下では、性別同一性は性器の形なども含めた環境因によって操作可能とされ、マイクロペニスを持って生まれた男の子は、ペニスの長さを基準にして、手術が容易という理由から、ペニス切除の上陰唇形成術が行われ女児として育てられていた。また、形成された陰唇が癒着しないよう、挿入器を入れておくことが必要とされた。更に大きくは、ペニスの大きさを基準としたこのようなガイドライン下では、マイクロペニスだけではない性別不明外性器の原因となるそれぞれ個別の疾患の特徴などはほとんど考慮されず、よって長期のアウトカムは調査されず、現在ではある程度予測もできる疾患ごとの将来持つだろう性自認のアウトカムについての研究もないがしろにされる結果となっていた。

*3:訳者注:以前は医者がすべて決めていた

*4:訳者注:CAHの女の子への胎内治療のことを指す。日本ではちゃんと説明の上でどうするか決められているようですが、やはり母体へのリスクが高いという話です。