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セメンヤは悪質なジェンダー戦争の犠牲者である : DSDsとスポーツ(4)

セメンヤは悪質なジェンダー戦争の犠牲者である

Janice Turner  May 4 2019, 12:01am

南アフリカインターセックス・アスリートは,女性スポーツの生き残りのためのテストケースとして扱われている間も,深く落ち着いた態度を崩さなかった。

www.thetimes.co.uk

 バックウォーターアスレチックミーティングに参加していた,当時まだ10代のキャスター・セメンヤは,女子競技出場の許可を受ける前にトイレに連れて行かれ,その下着を下ろされた。その後ポートレイトの撮影があったが,なぜか彼女は自分が女性であると「証明する」ために,筋肉質の体格に短いスカートとハイヒールを身につけた格好だった。しかし,その後も彼女は依然として難問,例外とされ,世界が分類しようと必死になっている,刺激的であちこち突っつき回される標本になっている。

 今週のCAS(スポーツ仲裁裁判所)裁定は無茶苦茶だ。このままだと昨夜のドーハでの彼女の圧勝は,彼女が走る最後の800メートルになるかもしれない。なぜなら,彼女は自分のテストステロン値(そしてそのスピード)を下げることには乗り気ではないように見えるからだ。しかし,彼女の高い男性ホルモン値が有利だとして分類されない,より長い距離に変更することはできる。

 しかし,キャスターは女性のスポーツのインテグリティをめぐる戦いで集中砲火を浴びた負傷者であり,それは,彼女の稀なDSD体の性の様々な発達(性分化疾患),あるいはインターセックスの体の状態とは何の関係もない。3年前,トランスの活動家たちは,国際オリンピック委員会(IOC)の規定を変更し,男性生まれの運動選手が女性と競争するために必要な条件は,テストステロンを一年間で10nmol/L(ナノモル/リットル)に下げることだけになった。IOC2020年の東京五輪までにこれを5nmol/Lに下げるかもしれない。女性は通常2nmol/L未満である。(男性は10.41から34 nmol/L)。

 トランスジェンダーの活動家たちは,男性の思春期が運動選手にもたらす永続的な有利さ(体格が大きく,筋肉量が厚く,心臓が大きく,赤血球が増えて酸素吸収が高まる)は重要ではないと主張した。そして今は,運動選手の血中テストステロンだけの問題とされるようになったのだ。都合のいいことに,遺伝的な男性はそれだけクリアすればいいのだと。結局,骨格を小さくすることはできないのだからと。 

 したがって,女性というものがテストステロンの低い人間にすぎないのであれば,この規則はすべての人に適用されなければならないことになる。しかし,キャスターのケースは単に不正ではない。彼女の支持者が言うように,水泳選手のマイケル・フェルプスが足を上下に反らせているのと同じくように,彼女は異常に高いテストステロンに恵まれた女性ではないのだ。彼女の尊厳を守るために,キャスターの性別検査の結果はこれまで当然非公開だった。しかしCASの裁定では,「46XX」ではなく「46XY」と呼ばれるインターセックス運動選手のみがテストステロンを低下させなければならないとされている。言い換えれば,この判決は,外見にかかわらず,染色体は一般的には男性型である人々に適用されるというわけだ。

 それでは,彼女はずっと男だったということなのだろうか? 繰り返すが,これはそれほど単純な話ではない。彼女はPAIS(部分的アンドロゲン不応症)の可能性が最も高いと言われているが,これは胎児の時にテストステロンを十分に利用できず,外性器は女性型で腹腔内に精巣をあることを意味する。重度のPAISは,彼女の体が男性の思春期の恩恵を十分に享受することをむしろ阻害するということだ。トランス女性なら言われなかったはずの,キャスターは男性と競争するべきだなんてことを主張することはできないはずなのだ。これこそもっと不公平なことだろう。

 それに,キャスター・セメンヤは女の子に生まれ育ち,常に女性として生き,決して騙していたわけではない。人間の約0.001%DSDの体の状態を持っているということから,彼女もまた,他の多くのスポーツ伝説のような選手たちと同じく,特異的な身体を持つ卓越者とみなすことができるのだ。しかし現在のジェンダー戦争ではそうとはみなされないのである。

 CASの評決は,ポーラ・ラドクリフやケリー・ホームズのような女性スポーツ活動家によって恐れられていた。マルティナ・ナブラチロワはセメンヤを親友と呼び,トランスとインターセックスのアスリートを混同してはならないと宣言した。しかし懸念されていたのは,もしCASが,染色体が男性型であるセメンヤがテストステロン値を低下させることなく女性と競争できると判断した場合,トランスアスリートも同じことを要求するだろうということだった。

  これはなにも妄想的な恐れではない。トランス系女性,レイチェル・マッキノン氏は,これまで男性としてはほとんど運動能力がなかったにもかかわらず,女性マスターズ・トラック・サイクリングで優勝し,女性であると自認していることが自分が女性であることを意味すると主張しているのだ。したがって,彼女が競技に参加するために天然のテストステロンを減らすよう要求することは,人権侵害に当たることになる。

 一方,アマチュアや大学のイベントでは,参加者はホルモン量に関係なく,自分が競争したい性別のカテゴリーを選ぶだけでよくなっている。コネチカット州では,女子国体選手権で,男性の体を持つ女性トランス・アスリート2人についで3位になった16歳の高校生のセリーナ・ソウルが,「女性」を生物学的現実から内面的感情に定義すると提案された米国平等法案と戦っている。彼女が問うているのは,女性のスポーツ,奨学金,記録,賞品は,もしそれを男性に生まれた人にもオープンにしたら,どうなってしまうのかという点だ。トランスの人々は少数ではあるが,確かに0.001%以上を占めるのである。

 セメンヤの裁定において,CASは少なくともIOCの新しい規則を強化し,一貫性を導入しようとしていた。健康な運動選手に薬を飲ませようとする激しい抗議の声にもかかわらず,セメンヤは避妊薬を飲む必要があるという結論になる可能性が高い。

 何よりも自制と落ち着きで行動してきた選手が,政治的サッカーのボールのように扱われるのは残念だ。南アフリカCASの決定を「アパルトヘイトの傷」を開くものだと声明を出していて,彼女の多くのファンは,キャスターの筋肉質の体格が批判されているのは黒人女性が常に白人の女性としての基準を満たしていないと判断されるからだと主張している。いまだ未踏の女子800M世界記録を1983年に樹立したチェコのはちきれんばかりの筋肉のヤルミラ・クラトフビロワを男性だと言う人はいないと彼らは主張している。ただ,彼女が東ヨーロッパのドーピングプログラムの一員だったといううわさは消えていないが。

 CASは,すべての女性に公正な競争を確保できなければ,「成功への道を見いだせないから」,次世代の女性競技というものを失う危険があるという世界中で高まっている懸念に対応したものにすぎなかった。悲しいことに,女性スポーツにとっての良い日は偉大な女性アスリートにとっては最悪の瞬間となったのだった。