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キャスター・セメンヤとIAAFの激しい戦いの詳細が文書で明らかに  DSDsとスポーツ(3)

キャスター・セメンヤとIAAFの激しい戦いの詳細が文書で明らかに

https://www.apnews.com/f844add98d02453ea926706f687c2fc7

ジェラルド・インレイAP通信2019年6月22日11時間前に更新

 

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南アフリカキャスター・セメンヤは5月3日,カタールのドーハで行われるダイヤモンド・リーグの女子800メートル決勝に出場。生まれつきのテストステロンのが高いことによる利点を隠すためにわざとゆっくり走っているとIAAFが非難したことについて,彼女は怒りと共にその告発を否定した。
Kamran Jebreili:AP通信


 先日公開された裁判所の文書によると,キャスター・セメンヤは、生まれつき高いテストステロン値による利点を隠すために意図的にゆっくり走っているとIAAFから非難された。

 セメンヤは怒りとともにその告発を否定した。

 このやりとりは,今年2月に開催されたスポーツ仲裁裁判所で行なわれた,彼女が訴えたテストステロン (男性ホルモン) に関する規則に関する163ページの裁判記録に含まれていた。4カ月後,この文書は両者の合意で編集の上公開された。

 文書には2009年の世界選手権の前後に行われた「残虐で屈辱的な」出来事についても書かれており、当時まだわずか18歳だったセメンヤは,合意なしに2回の「性別確認テスト」を受けさせられたとしている。

 ある婦人科医によれば,IAAFはその後まだ若いセメンヤにテストステロンを除去する手術を受けるように迫ったという。この婦人科医はIAAFの要請に抵抗し,最終的にセメンヤはホルモン抑制剤の服用に同意した。

 以下は、裁判文書からの詳細である。

 

セメンヤの受けた体験 

 セメンヤは,10年前のベルリンの初のメジャー大会で,世界中で受けた体験について,証言の中で初めて詳細に説明した。

 彼女によれば,南アフリカ陸上競技連盟は婦人科医を派遣し,彼女の性器の検査や血液サンプルの採取などの検査を行わせたが,何のための検査なのかは告げなかったという。世界選手権800Mで優勝した後,IAAFはドイツの病院で当時まだ10代だった少女にさらなる検査を行った。それは「IAAFによる命令」で,自分には選択の余地がなかったとセメンヤは述べている。

 話はそれに終わらない。セメンヤは2010年にホルモン抑制剤(経口避妊薬)を服用することに同意したが,それはIAAFが生まれつきのテストステロン値を医学的に低下させなければ競争を続けることはできないと言ったからだ。セメンヤはIAAFがテストステロン規制を初めて導入した前年から投薬させられていた。彼女はその時まだ10代だった。

 セメンヤの対応にあたった南アフリカの婦人科医であるグレタ・ドレイヤーは,IAAFがまず「セメンヤに対して望まれる処置」としたのは手術であると「はっきりと言った」と証言した。ドレイヤー医師はその要請に抵抗し,セメンヤが何らかの治療を受けるとすれば,それはホルモン抑制に留めるべきだと述べた。IAAFはこの規制のもとではいかなる競技者に対しても手術の強制は否定しているとしたが,手術は経口避妊薬やホルモン遮断注射と並んで世界的な団体が推奨している治療法の1つとなっているとした。


治療法 

 セメンヤは2010〜2015年の5年間経口避妊薬を服用し,体重増加や発熱,吐き気,腹痛など,2011年の世界選手権大会や2012年のオリンピックで経験した多くの副作用を訴えた。南アフリカ陸上競技チームの医師によると,この薬はセメンヤの感情状態やトレーニング能力にも影響を及ぼし,「目に見えてうつ状態に落ち込んでいた」という。医師のフィルダ・デ・ジャガー氏によると、この薬はセメンヤの身体の代謝を「狂わせ」,更年期の女性の症状を呈させたとしている。

 またセメンヤは,彼女が故意に薬物を服用せず,メジャー大会に向けてテストステロン値を操作していたというIAAFの非難に対しても,これを否定した。彼女は5年間,毎月2回の血液検査と予告なしの無作為血液検査を受けなければならなかった。アスリートのテストステロンを医学的に減少させる実験の「ラット」のように扱われているようにセメンヤは感じたという。

 

「生物学的に男性」 

 IAAFはそれまでは公にそう言わなかったが,スイスのスポーツの最高裁判所の非公開の審理の中で,セメンヤや特定の「体の性の様々な発達状態(DSD性分化疾患)を持つアスリートたちは「生物学的に男性」だと主張した。現在28歳のセメンヤは,男性に典型的なXYの染色体パターンで,男性と女性の生物学的特徴を持ち,テストステロンが典型的な女性の範囲より高い状態で生まれたのだと。彼女は出生時に法的に女性と確認され,生涯を通じて女性として生きてきている。

 セメンヤは,IAAFの「生物学的に男性」との主張に「ひどく傷ついた」と述べた。

 この発言はIAAFの医学・科学部門の責任者でテストステロン規制の立案責任者を務めるステファン・ベルモンによるものであった。セメンヤの弁護士による反対尋問の中で,ベルモンはこの陳述は誤りであったと認めた。証言の中でベルモンは,いわゆる46XY DSDの体の状態で,セメンヤのようなテストステロンを減らす治療を受けた全ての運動選手が競技に戻ったわけではないことも認めた。

 IAAFは法廷審問で,テストステロン値の高さがセメンヤらこれまで46人のXY DSDのアスリートに,典型的なテストステロンレベルの女性よりも不公平な優位性を与えることを示す研究調査を提出した。3人の裁判官のうち2人 (1人はセメンヤを擁護する立場) が証拠を認め,IAAFは裁判官2対1の過半数で勝利したのだった。


アスリートの同意 

 IAAFのテストステロン調査の一部は,ベルモン医師が2011年の韓国大邸の世界選手権と2013年のモスクワ世界選手権 で採取した,世界のトップアスリート2,000人以上の血液サンプルを使った研究から得られたものだ。サンプルは当時アンチ・ドーピング・テストのために採取され,数年後には生まれつきのテストステロンを規制するルールを支持する研究のためにベルモンによって使用された。選手たちは自分の医療サンプルを後の研究に使用される可能性についての同意書を提供するようIAAFに求めていたが,IAAFは拒否していた。

 ベルモンは,倫理に反する研究が行なわれたという疑惑に対して,選手たちは自分たちのサンプルが「アンチドーピング研究」に使われることに同意しており,テストステロンのデータはそれに役立てたと述べた。ベルモン医師は,この研究が他の問題を「明らかにする」ために行われたという事実は無関係だとしている。


テストステロン制限のこれから 

 ベルモンは,IAAFがテストステロン制限を一部の競技 (400メートルから1マイルまでのトラックレース) に適用する決定を下した背景にある研究の一部を明らかにしたが、それ以外の競技でもテストステロンのアドバンテージがあることを示す独自の証拠があったにもかかわらず,その競技には適用しなかった。

 IAAFの説明はシンプルだ。IAAFはセメンヤのような46XY DSDアスリートが目立つ競技をターゲットにしたのだ。ベルモンは述べている。46XY DSDを持つ6〜8人のアスリートが他の競技に3〜5年間参加すれば,その競技でもテストステロンの制限が適用されることになるだろうと。