NPRの記事は、ヨーロッパ考古学雑誌に掲載されたエントリー論文の要約であり、考古学的対象(遺骸)を使い、新しい技術を使用してaDNA(古代DNA)の同定を行い、その個人が具体的にどのような人物であったかについての仮定をするというものです。査読を受けた論文ということですが、私たちLiving with XXYは記事のタイトルが実際の内容とは異なると感じています。クラインフェルター症候群に関して引用された情報源は時代遅れのものであり、より高度なクラインフェルター症候群の研究のベストプラクティスとも一致していません。1,000年前の人物の生活の一瞬の写真を基にして、この人物の身元、性自認、または性的指向について勝手に仮定することはできないでしょう。
近年、DSDs(Differences of Sex Development)あるいは,CCSD(Congenital Condition of Sex Development)を持つ人々の治療やアイデンティティの問題は、ますますセックスやジェンダー、性自認・性同一性をめぐる議論に巻き込まれています。DSDsというカテゴリーに分類される40ほどの体の状態について使われる言葉は、これらの症状のひとつを持つ人々の間で大いに議論され、論争になっています。私はこの記事では、最も一般的に使われている用語であるDSDs(Differences of Sex Development):「体の性の様々な発達」と呼ぶことにします。
ターナー症候群の女性は、DSDsを持つすべての人と同様に、これらの症状やそれが実際にどのようなものであるかについて、ほとんど知識がないという事実に対処しなければなりません。これは、一部の医療関係者だけでなく、一般の人々も同様です。また、医学書では、DSDsを不正確な言葉で説明したり、不適切な画像(例えば、DSDsを持つ人の裸の標本写真)を使用したりすることが行われています。ソーシャルメディア上では、ターナー症候群に関する不適切なジョークやコメントを定期的に目にします。また、私たちがメディアで描かれるとき、それはたいてい(不妊や健康上の問題から)哀れみの対象として描かれています。ターナー症候群は、「Casualty」や「CSI Special Victims Unit」などのドラマでも、深く問題のある形で描かれてきました(この問題は、他のDSDsでも起きています。例えば、AIS女性のキャラクターが登場した「House」のエピソードなど)。
DSDsを持つ人の数も定期的に誤って伝えられています。1.7%という誤った数字が定期的にソーシャルメディアで引用されているのです(この数字は、アン・ファウスト・スターリングが彼女の2000年の著書「Sexing the body: gender politics and the construction of Sexuality」で最初に引用した数字です)。ですがこの数字は、特にレナード・サックスによる医学文献などですぐに論破された数字なのです(注7)。
5ポーザーの存在は、 Association of American Medical Colleges(AAMC)のLGBT及びDSDs支援のテキストブックや、オランダの報告書でも指摘されている。「「インターセックス」と名乗る人たち(特にトランスジェンダーの成人)の中には、DSDと認識される体の状態で生まれてこなかった人もいる」Hollenbach,A・前掲注(62)8頁。「診断されたわけでもないのに、自分をインターセックスであると自称する人たちもいる。」van Lisdonk・前掲注(4)23頁。ポーザーで最も有名なのは、社会学者のハロルド・ガーフィンケルの『エスノメソドロジー』におけるアグネスであろう。日本語訳版では割愛されているが、トランスセクシャルである彼女は、当初自身をインターセックスであると、社会学者のガーフィンケルや、性別同一性概念の提唱者の一人である心理学者ロバート・ストラ-に話していたが、後に12歳から女性ホルモンを服薬していただけであったとストラ-に告白している。Garfinkel, Harold 1967 'Appendix to chapter five' in Garfinkel, Harold Studies in Ethnomethodology, pp.285-288. 当然だが、性別違和のある人やトランスジェンダーの人々が社会的差別から「自分はインターセックスだ(生物学的理由がある)」と言うということは十分あり得ると思われる。しかしそれはDSDsに対する偏見を助長することになり、またそういうった切実さとは別に、ある種の「解釈的不正(Hermeneutical Injustice)」(マイノリティの具体的な困難を理解しようとせず、マジョリティや他の集団が自分に都合よく解釈して利用すること)によって、他の集団の人々との違いが不明瞭にされることを、インターセックス活動家のモーガン・カーペンターが指摘している。 M.Carpenter・前掲注(98)
7インターセックス活動家のジム・アンブロースは、自身がインターセックスについてLGBT系メディアに寄せたエッセイで、AIS女性とのツーショットで撮影した写真を送ったところ、男女半々の写真にすげ替えられたエピソードから、<インターセックス>という見世物小屋に対する「観客の問題」を指摘している。:J. Ambrose. I Thought People Like That Were Clip Art/A Modern Minstrel Show. 2014(現在リンク切れ)(日本語訳:ネクスDSDジャパン『現代のミンストレルショー』(2020年9月30日取得))
8北米インターセックス協会(ISNA)代表のCheryl Chase(Bo Laurant)とのパーソナルコミュニケーション(2018/7/4来日時)、あるいはDreger A.Jarring bodies: thoughts on the display of unusual anatomies.” Perspectives in Biology and Medicine. 43(2):161-172, 2000.
また、やはりこの活動家が代表である団体も、<インターセックス>を含んだ「LGBTIQA+」を掲げた文書を自身のサイトにアップしている。先にオーストラリアの「インターセックス」当事者団体が、「インターセックスの人々は、LGBTの団体・活動家たちの利益のためだけに、不注意な態度で誤った説明をされ、利用されるだけ利用されてポイッと捨てられてしまってばかり(thrown under the bus)である」と強く訴えていることを指摘したが、LGBTQ等性的マイノリティやアライの活動家が一方的に掲げる「LGBTIQA+」というものが、どのようなものなのか、如実に表れているように思われる。そこでは、切実に女性・男性である大多数の当事者のことは全く想像さえせず、それを苦に自死さえする、DSDsを持つ人々の極めて私的で極めてセンシティブな領域であるはずの「性器」「生殖器」の話を、あるいはその人々自身の存在自体を、全く望みもしない形で、まるで自分のモノのように、パーツのように扱っている自分自身の姿は全く振り返られないのである15。
2015年、著名なトランスジェンダー支援者で、インターセックス支援者も自認する性科学者ミルトン・ダイアモンドによる「Nature loves diversity, but our society may not 人間の性をめぐる諸言説の本当と嘘」(通訳と日本語資料作成は,性的マイノリティ支援者を自認する大阪府立大学(当時)教授の東優子氏)と題された講演では、(あるいは「性自認に配慮」した表現なのだろうか)「精巣があり、女性的な外見をしたXYの人」として、AISの有色女性の全裸の写真が展示されている23。(もう一つ我々が注視しなければならないのは、この講座で展示されている全裸もしくは半裸の写真のDSDs当事者が、全員「有色人種」と呼ばれる人々であるということだろう。)
5ポーザーの存在は、 Association of American Medical Colleges(AAMC)のLGBT及びDSDs支援のテキストブックや、オランダの報告書でも指摘されている。「「インターセックス」と名乗る人たち(特にトランスジェンダーの成人)の中には、DSDと認識される体の状態で生まれてこなかった人もいる」Hollenbach,A・前掲注(62)8頁。「診断されたわけでもないのに、自分をインターセックスであると自称する人たちもいる。」van Lisdonk・前掲注(4)23頁。ポーザーで最も有名なのは、社会学者のハロルド・ガーフィンケルの『エスノメソドロジー』におけるアグネスであろう。日本語訳版では割愛されているが、トランスセクシャルである彼女は、当初自身をインターセックスであると、社会学者のガーフィンケルや、性別同一性概念の提唱者の一人である心理学者ロバート・ストラ-に話していたが、後に12歳から女性ホルモンを服薬していただけであったとストラ-に告白している。Garfinkel, Harold 1967 'Appendix to chapter five' in Garfinkel, Harold Studies in Ethnomethodology, pp.285-288. 当然だが、性別違和のある人やトランスジェンダーの人々が社会的差別から「自分はインターセックスだ(生物学的理由がある)」と言うということは十分あり得ると思われる。しかしそれはDSDsに対する偏見を助長することになり、またそういうった切実さとは別に、ある種の「解釈的不正(Hermeneutical Injustice)」(マイノリティの具体的な困難を理解しようとせず、マジョリティや他の集団が自分に都合よく解釈して利用すること)によって、他の集団の人々との違いが不明瞭にされることを、インターセックス活動家のモーガン・カーペンターが指摘している。 M.Carpenter・前掲注(98)
6.1Meyer-Bahlburg, H., Khuri, J., Reyes-Portillo, J., & New, M. I. (2017). Stigma in Medical Settings As Reported Retrospectively by Women With CAH for Their Childhood and Adolescence. Journal of pediatric psychology, 42(5), 496–503.
7インターセックス活動家のジム・アンブロースは、自身がインターセックスについてLGBT系メディアに寄せたエッセイで、AIS女性とのツーショットで撮影した写真を送ったところ、男女半々の写真にすげ替えられたエピソードから、<インターセックス>という見世物小屋に対する「観客の問題」を指摘している。:J. Ambrose. I Thought People Like That Were Clip Art/A Modern Minstrel Show. 2014(現在リンク切れ)(日本語訳:ネクスDSDジャパン『現代のミンストレルショー』(2020年9月30日取得))
8北米インターセックス協会(ISNA)代表のCheryl Chase(Bo Laurant)とのパーソナルコミュニケーション(2018/7/4来日時)、あるいはDreger A.Jarring bodies: thoughts on the display of unusual anatomies.” Perspectives in Biology and Medicine. 43(2):161-172, 2000.
9van Lisdonk, N.Callens, Labeling, stigma and discrimination: experiences of people with intersex/DSD.TvS (2017) 41-2, pp95-104
24Diana Moskovitz・前掲注(113)。同じく「高アンドロゲン」を疑われたインドの女子スプリンター、デュティ・チャンドも同じような「検査」を受けさせられたことを証言している(インド陸上連盟は否定している)。チャンドは検査結果については暴露されなかったが、「性別確認検査に落ちた」ことは報道され、当時のことを「ニュースでは、私は男の子だと言っている人もいました。(筆者中略)私は丸裸にされているように感じました。私は人間ですが、自分が動物のように感じました。こんなに恥辱を受けてどうやって生きていくのかと思いました」(強調筆者)と語っている。The New York Times Magazine(2016)The Humiliating Practice of Sex-Testing Female Athletes.(2020年9月30日取得)
22K.Karkazis & R.Jordan-Young (2018). The Powers of Testosterone: Obscuring Race and Regional Bias in the Regulation of Women Athletes. Feminist Formations.30(2). pp1-39.
24Diana Moskovitz・前掲注(113)。同じく「高アンドロゲン」を疑われたインドの女子スプリンター、デュティ・チャンドも同じような「検査」を受けさせられたことを証言している(インド陸上連盟は否定している)。チャンドは検査結果については暴露されなかったが、「性別確認検査に落ちた」ことは報道され、当時のことを「ニュースでは、私は男の子だと言っている人もいました。(筆者中略)私は丸裸にされているように感じました。私は人間ですが、自分が動物のように感じました。こんなに恥辱を受けてどうやって生きていくのかと思いました」(強調筆者)と語っている。The New York Times Magazine(2016)The Humiliating Practice of Sex-Testing Female Athletes.(2020年9月30日取得)
26Fénichel P, Paris F, Philibert P, et al. Molecular diagnosis of 5α-reductase deficiency in 4 elite young female athletes through hormonal screening for hyperandrogenism. J Clin Endocrinol Metab. 2013;98(6):E1055-E1059.
2「陰核肥大の一部や全体が除去された手術の結果、多くの患者が性的な感覚を失ったり痛みがあるなどの問題を抱えていると報告されている」: Minto CL, Liao L-M, Woodhouse CRJ, Ransley PG, Creighton SM. The effect of clitoral surgery on sexual outcome in individuals who have intersex conditions with ambiguous genitalia: a cross-sectional study. The Lancet 361:1252-1257,2003.
3AIS女性の性腺の胚細胞腫瘍発生率は思春期までは1%未満、思春期後は10-15%とされている(但し上皮腫瘍形成のリスクは常にあり、その浸潤的なリスクは不明)。一方スワイヤー症候群等の未分化性腺の芽細胞腫発生率は30-50%で、早期の摘出が必要になる。Cools M,et al., Managing the risk of germ cell tumourigenesis in disorders of sex development patients. Endocr Dev. 2014;27:185-96. また、このような性腺摘出に関して、ジョグジャカルタ原則などでは「強制不妊手術」と表現されることがある。ただし、確かに以前のマネープロトコルの時代に男性の機能する精巣の摘出が行われたことがあったが、現在人権支援団体が訴えているのは、主にたとえばAIS女性の性腺の摘出についてである。AIS女性の性腺自体はやはりアンドロゲンに反応しないため精子を作ることもない(つまり不妊状態)が、将来の生殖補助医療技術の発展によって何らかの配偶子作成が可能になるかもしれないという上での性腺温存を念頭に置いたものであることには注意しなければならない。
5Intersex Human Rights Australia、What is intersex? (2020年9月30日取得)。本論やネクスDSDジャパンでのDSDsの定義もこれに沿っている。しかしアカデミズムやLGBTコミュニティを含めた社会全体では、「インターセックス」という用語からは、やはり誤解・偏見から「間性」などのハーマフロダイト(両性具有:男でも女でもない性)イメージを想像しがちだろう。
9たとえば、「性別適合のための処置で満足のいく結果が得られなかったトランスジェンダーやインターセックスに適用される。この法制が画期的なのは、「第三の性」を創設し、恒久的なものとすることである。オーストラリアのような措置は非常に珍しい、今後各国の制度的先例になる可能性がある。」松宮智生『スポーツにおける男女二元制に関する一試論−性別確認検査における女子競技者の基準を起点に−』THE ANNUAL REPORTS OF HEALTH, PHYSICAL EDUCATION AND SPORT SCIENCE VOL.35, 19-27, 2016。「これは、性別適合手術を行っていないトランスジェンダーの方や、性自認が男でも女でもない(あるいは両方である)と感じるXジェンダーの方、インターセックスの方などの生きづらさを緩和しようとするもの、そもそも性別は「男」「女」に限らないと国が認めたという意味でも歴史的な快挙と言えます。」g-lad xx,『「オーストラリアのパスポートには性別欄が3つある。」という車内広告が登場』(2020年9月30日取得)
たとえば、2014年にオーストラリアの出生・死亡・婚姻届での男女以外の「non specific(不特定)」が認められたケースは、「出生時に男性の生殖器官をもって生まれ、後に女性への性別適合手術を受けたが、手術後の体の性(sex)が曖昧で、ノンバイナリーの性自認を好むようになった」トランスセクシャルの人とその弁護団が、実は当初「intersex」または「non specific」の性別欄を求めたもので、申立人の状態を「インターセックス」という用語と同義語で使用することを賛成するよう裁判所に主張していた10。オーストラリアのインターセックス活動家団体Intersex Human Rights Australia(ihra)は判決前に声明を出し、「この件についてはコメントもしたくない」「私たちは巻き込み被害を受けている」「申立人と弁護団の戦略は、インターセックスを利用するものだ」と強い懸念を表明している11。
14「第三の性の分類は、乳児にさらなる困難をもたらす。親は、スティグマや暴露、社会的な無理解を、身体への介入によって避けなければならないとプレッシャーを感じることになる」: Morgan Carpenter、The human rights of intersex people: addressing harmful practices and rhetoric of change. Reproductive Health Matters Volume 24, Issue 47, May 2016, Pages 74-84
17セレナ・ナンダによれば、インドのヒジュラは「女性の服を着て女性の振舞いをする男性の宗教的な共同体」(筆者注:「男性」とするのはまた別の意味で誤謬である)で、自らを「生まれつきの『半陰陽』」としているが、現実にはMTFトランスジェンダーの集団。:Serena Nanda, Neither Man Nor Woman: The Hijras of India. Wadsworth Pub Co (1990) (蔦森樹、カマル・シン訳『ヒジュラ―男でも女でもなく』 青土社(1999))
2「陰核肥大の一部や全体が除去された手術の結果、多くの患者が性的な感覚を失ったり痛みがあるなどの問題を抱えていると報告されている」: Minto CL, Liao L-M, Woodhouse CRJ, Ransley PG, Creighton SM. The effect of clitoral surgery on sexual outcome in individuals who have intersex conditions with ambiguous genitalia: a cross-sectional study. The Lancet 361:1252-1257,2003.
3AIS女性の性腺の胚細胞腫瘍発生率は思春期までは1%未満、思春期後は10-15%とされている(但し上皮腫瘍形成のリスクは常にあり、その浸潤的なリスクは不明)。一方スワイヤー症候群等の未分化性腺の芽細胞腫発生率は30-50%で、早期の摘出が必要になる。Cools M,et al., Managing the risk of germ cell tumourigenesis in disorders of sex development patients. Endocr Dev. 2014;27:185-96. また、このような性腺摘出に関して、ジョグジャカルタ原則などでは「強制不妊手術」と表現されることがある。ただし、確かに以前のマネープロトコルの時代に男性の機能する精巣の摘出が行われたことがあったが、現在人権支援団体が訴えているのは、主にたとえばAIS女性の性腺の摘出についてである。AIS女性の性腺自体はやはりアンドロゲンに反応しないため精子を作ることもない(つまり不妊状態)が、将来の生殖補助医療技術の発展によって何らかの配偶子作成が可能になるかもしれないという上での性腺温存を念頭に置いたものであることには注意しなければならない。
5Intersex Human Rights Australia、What is intersex? (2020年9月30日取得)。本論やネクスDSDジャパンでのDSDsの定義もこれに沿っている。しかしアカデミズムやLGBTコミュニティを含めた社会全体では、「インターセックス」という用語からは、やはり誤解・偏見から「間性」などのハーマフロダイト(両性具有:男でも女でもない性)イメージを想像しがちだろう。
9たとえば、「性別適合のための処置で満足のいく結果が得られなかったトランスジェンダーやインターセックスに適用される。この法制が画期的なのは、「第三の性」を創設し、恒久的なものとすることである。オーストラリアのような措置は非常に珍しい、今後各国の制度的先例になる可能性がある。」松宮智生『スポーツにおける男女二元制に関する一試論−性別確認検査における女子競技者の基準を起点に−』THE ANNUAL REPORTS OF HEALTH, PHYSICAL EDUCATION AND SPORT SCIENCE VOL.35, 19-27, 2016。「これは、性別適合手術を行っていないトランスジェンダーの方や、性自認が男でも女でもない(あるいは両方である)と感じるXジェンダーの方、インターセックスの方などの生きづらさを緩和しようとするもの、そもそも性別は「男」「女」に限らないと国が認めたという意味でも歴史的な快挙と言えます。」g-lad xx,『「オーストラリアのパスポートには性別欄が3つある。」という車内広告が登場』(2020年9月30日取得)
14「第三の性の分類は、乳児にさらなる困難をもたらす。親は、スティグマや暴露、社会的な無理解を、身体への介入によって避けなければならないとプレッシャーを感じることになる」: Morgan Carpenter、The human rights of intersex people: addressing harmful practices and rhetoric of change. Reproductive Health Matters Volume 24, Issue 47, May 2016, Pages 74-84
17セレナ・ナンダによれば、インドのヒジュラは「女性の服を着て女性の振舞いをする男性の宗教的な共同体」(筆者注:「男性」とするのはまた別の意味で誤謬である)で、自らを「生まれつきの『半陰陽』」としているが、現実にはMTFトランスジェンダーの集団。:Serena Nanda, Neither Man Nor Woman: The Hijras of India. Wadsworth Pub Co (1990) (蔦森樹、カマル・シン訳『ヒジュラ―男でも女でもなく』 青土社(1999))
3Kristina I. Suorsa et. al., Characterizing Early Psychosocial Functioning of Parents of Children with Moderate to Severe Genital Ambiguity due to Disorders of Sex Development. J Urol. 2015 Dec;194(6):1737-42.
9Schweizer K.et al., Coping With Diverse Sex Development: Treatment Experiences and Psychosocial Support During Childhood and Adolescence and Adult Well-Being. J Pediatr Psychol. 1;42(5):504-519,2016.
11Karsten Schützmann,et.al.,Psychological distress, self-harming behavior, and suicidal tendencies in adults with disorders of sex development. Arch Sex Behav. 2009 Feb;38(1):16-33.
10 S. Richardson・前掲注(52):RichardsonはX・Y染色体に過剰な男性性・女性性が投影されることを「X・Y染色体のジェンダー化」と呼んでいる。彼女は、たとえば45,X(ターナー症候群)の女性は「女性性の発達(および発達一般)の不全としてとしてよりも、男性性の兆候として表現され」、「性の反転した男性」とまで言う遺伝学者がいた事(151頁)、XYY染色体の男性に対しては、当時の社会で、男性性あふれるスーパーヒーローのようなイメージが投影される一方、凶悪犯罪者がXYYの持ち主であるかのような誤った言説も流布したことを指摘している(117-146頁)。筆者は、「欠損」あるいは「過剰」とされる身体的特徴を持つ人に対して、現実の人間とかけ離れたイメージが投影され、そのイメージが、スーパーヒーローといった「聖性」と凶悪犯罪者イメージのような「穢れ」に分裂(splitting)していることに注目したい。なお、XYY男性が特徴的に「男性性」・攻撃性が高いという素朴に過ぎる偏見は現在は否定されている。またXXX女性も特に女性的特徴が高くなるということもない。45,X(ターナー症候群)で不妊状態にある女性を、染色体のみに強迫的に執着し,X染色体が1つだけだからと言って「女性のようではない」などとするのはただの人権侵害である。
18van Lisdonk・前掲注(4)45頁、Callens N・前掲注(11)52頁、あるいは、Hollenbach, A. D., Eckstrand, K. L., & Dreger, A. D. (2014). Implementing curricular and institutional climate changes to Improve health care for individuals who are LGBT, gender nonconforming, or born with DSD . Washington, DC: Association of American Medical Colleges. pp134-136、等。我々は、子宮や卵巣を失った女性、事故などでペニスを失った男性に「あなたは女性・男性どっちだと思いますか?」と性自認を問うようなことが、どれだけ相手を傷つけることになるか想像はできるだろう。
17Stoller, R.J. (1968) Sex amd Gender The Development of Masculinity and Femininity, 桑畑勇吉訳「性と性別―男らしさと女らしさの発達について」 (1973) 岩崎学術出版,17-25頁
18van Lisdonk・前掲注(4)45頁、Callens N・前掲注(11)52頁、あるいは、Hollenbach, A. D., Eckstrand, K. L., & Dreger, A. D. (2014). Implementing curricular and institutional climate changes to Improve health care for individuals who are LGBT, gender nonconforming, or born with DSD . Washington, DC: Association of American Medical Colleges. pp134-136、等。我々は、子宮や卵巣を失った女性、事故などでペニスを失った男性に性自認を問うようなことが、どれだけ相手を傷つけることになるか想像はできるだろう。
「Living with intersex/DSD An exploratory study of the social situation of persons with intersex/DSD」は、2014年に出版された世界で初めての公的機関によるDSDsを持つ人々の実態調査報告書である。オランダ教育文化科学省解放局の要請で、オランダ社会文化計画局が調査を行った。また、2017年にはベルギー、フランドル共同参画省の委託を受け、Gent大学の文化・ジェンダーセンターが当事者家族の調査を行い、「SAMENVATTING INTERSEKSE/DSD IN VLAANDEREN」として調査結果をまとめている。www.nexdsd.com
8DSDsを持つ人々は一般人口の大多数と同じく異性愛でシスジェンダーなのである。胎生期での高レベルのテストステロン暴露がある女性の一部のDSDsの場合は、活動性(いわゆる「男らしさ」)の増加や、女性に対して性的魅力を感じたりすることがある。その中で一部に性別同一性の揺らぎをもたらすことあるが、これについても非生物学的影響(親の態度、友達の影響、文化的文脈など)の相対的な寄与がどれほどあるか分かっておらず、ますはジェンダー・ロール(活動性・「男の子っぽい」行動)を、性別同一性の問題とすぐさま混同してはならないことが指摘されている。:Cohen-Kettenis PT、Psychosocial and psychosexual aspects of disorders of sex development. Best Pract Res Clin Endocrinol Metab. Apr;24(2):325-34, 2010.あるいはMeyer-Bahlburg, H.F.L., Dolezal, C., Baker, S.W. et al. Prenatal Androgenization Affects Gender-Related Behavior But Not Gender Identity in 5–12-Year-Old Girls with Congenital Adrenal Hyperplasia. Arch Sex Behav 33, 97–104, 2004.
10たとえば、2009年から2013年までに英国NHTのGIDサービスに訪れた出生女性で性別違和のある人で、超音波検査により先天性の障害が見つかった人は1人のみ、同じく2009年から2015年までの性別違和のある人446人で何らかの染色体の違いが判明した人は2人のみだったことが報告されている。Gary Butler,et.al.,Assessment and support of children and adolescents with gender dysphoria. Arch Dis Child. 2018 Jul;103(7):631-636
たとえば、オーストラリアのLGBTIQ+の人々の健康促進事業THE EQUALITY PROJECTによるカンファレンス、BetterTogether2018では、インターセックス・ヒューマン・ライツ・オーストラリア(ihra)共同代表のトニー・ブリフファが「インターセックスの人々は、LGBTの団体・活動家たちの利益のためだけに、不注意な態度で誤った説明をされ、利用されるだけ利用されてポイッと捨てられてしまってばかり(thrown under the bus)である」と、かなり強い批判をしている(図2)。また、ロシアの複数のインターセックス団体も合同で、現地のLGBT団体や活動家が掲げる「LGBTI」に対して、それはむしろインターセックスに対する誤解を広げ、当事者特有の問題やニーズを歪め、隠蔽することになると批判的な声明を出しているなど13、むしろ当事者団体が掲げる「LGBTI」は、LGBTムーブメントでのDSDs(インターセックス)を持つ人々の身体の搾取的構造からの自らの自律性・独立(Nothing about us without us)を求めるものと見たほうが分かりやすい。
3Carpenter M.,The human rights of intersex people: addressing harmful practices and rhetoric of change. Reprod Health Matters.(47):74-84, 2016. あるいはISNA,Is a person who is intersex a hermaphrodite?(2020年9月30日取得)等。
4Rider G.N.et.al.,Health and Care Utilization of Transgender and Gender Nonconforming Youth: A Population-Based Study. Pediatrics Vol.141 No.3, 2018. 日高庸晴: 多様な性と生活についてのアンケート調査報告書. 三重県男女共同参画センター「フレンテみえ」平成28・29年度, 2018.
5dsd-LIFE group, Participation of adults with disorders/differences of sex development in the clinical study dsd-LIFE, BMC Endocr Disord. 18;17(1):52, 2017
8DSDsを持つ人々は一般人口の大多数と同じく異性愛でシスジェンダーなのである。胎生期での高レベルのテストステロン暴露がある女性の一部のDSDsの場合は、活動性(いわゆる「男らしさ」)の増加や、女性に対して性的魅力を感じたりすることがある。その中で一部に性別同一性の揺らぎをもたらすことあるが、これについても非生物学的影響(親の態度、友達の影響、文化的文脈など)の相対的な寄与がどれほどあるか分かっておらず、ますはジェンダー・ロール(活動性・「男の子っぽい」行動)を、性別同一性の問題とすぐさま混同してはならないことが指摘されている。:Cohen-Kettenis PT、Psychosocial and psychosexual aspects of disorders of sex development. Best Pract Res Clin Endocrinol Metab. Apr;24(2):325-34, 2010.あるいはMeyer-Bahlburg, H.F.L., Dolezal, C., Baker, S.W. et al. Prenatal Androgenization Affects Gender-Related Behavior But Not Gender Identity in 5–12-Year-Old Girls with Congenital Adrenal Hyperplasia. Arch Sex Behav 33, 97–104, 2004.
9WPATH、Standards of Care for the Health of Transsexual, Transgender, and Gender Nonconforming People 7th Version. International Journal of Transgenderism. Volume13,2012-Issue 4
10たとえば、2009年から2013年までに英国NHTのGIDサービスに訪れた出生女性で性別違和のある人で、超音波検査により先天性の障害が見つかった人は1人のみ、同じく2009年から2015年までの性別違和のある人446人で何らかの染色体の違いが判明した人は2人のみだったことが報告されている。Gary Butler,et.al.,Assessment and support of children and adolescents with gender dysphoria. Arch Dis Child. 2018 Jul;103(7):631-636
1Intersex Human Rights Australia, Intersex for allies.(2020年9月30日取得)2020年現在では「30~40種類」とされている。CAH,AIS,ロキタンスキー症候群,ターナー症候群など,現実のDSDs各体の状態ごとのサポートグループのレベルでは,8~9つほどのグループがある。
4医学的には”ambiguous genitalia”(曖昧な外性器)と呼ばれるが、社会ではまるで性別が曖昧であるかのような誤解・偏見があるため、当事者や家族からは批判が多い。代替案としては、”Different genitalia(形が違う外性器)”や”Nontypical genitalia(非定型的な外性器)”などがある。Lin-Su K,Lekarev O, Poppas DP, Vogiatzi MG、Congenital adrenal hyperplasia patient perception of disorders of sex development nomenclature、Int J Pediatr Endocrinol. 2015;2015(1):9、Ellie Magritte,Working together in placing the long term interests of the child at the heart of the DSD evaluation, J Pediatr Urol. 2012 Dec;8(6):571-5
10John Colapinto, As Nature Made Him: The Boy Who Was Raised As A Girl. Harper Perennial,2000(村井智之訳『ブレンダと呼ばれた少年―ジョンズ・ホプキンス病院で何が起きたのか』無名舎,2000年).ジョン・マネーは1960年代を中心に、特にインターセックスやトランスセクシュアルの研究から、性科学の第一人者と呼ばれた性心理学者。「性的嗜好(sexual preference)」を「性的指向(sexual orientation)」に言い換え、トランスセクシュアリズム(後の「性同一性障害」の概念)の人々やDSDsを持つ人々に対して、言語学で使われていた「ジェンダー(gender)」を「性別同一性」等の意味ではじめて援用する。マネーの理論は、生まれて18カ月以内の子どもの性自認は中立であり、24カ月までに社会的に獲得された性別同一性は不変のものとなるというもので、この理論のもと、割礼手術の事故でペニスを失った一卵性の双子男児の一方に対し、このままでは男性としての性別同一性が確立できないとし、精巣摘出・女性ホルモン投与の上、事故や「治療」のことは本人に一切隠した上で女児として育てることを勧め、両親もそれに従う。マネーはその後、この子どもが順調に女の子として育っており、性の分化において、生物学的な要素より環境に優位性があることを証明する揺るぎない証拠だとし、トランスセクシュアリズムの人々に対しては、性別同一性を変えることは不可能で、むしろ身体の方を自認する性別に合わせる方が良いとし、現在に言う「性別適合手術」を進める上では大きな原動力となり、また女性学では、いわゆる「Nature vs. Nurture(生得か環境か)論争」の中で、「男らしさ・女らしさ」あるいは性自認でさえ決して生まれによって決まるものではなく、社会的に構築されていくものだという有力な証左・象徴として繰り返し引用されていく。しかし1980年代になって、この少年は女の子として扱われることに一度として満足せず、両親に真実を打ち明けられた日から、元の男性で生活をしていることが明らかになる。このケースの結果は、性同一性障害やトランスジェンダーの人々には、今度は「性の自己決定権」の必要性の象徴例として取り上げられるようになる。2004年にこの男性は自殺。しかしマネーによるプロトコルのDSDsを持つ新生児への適応(新生児で陰茎を引っ張って2.5cm以上なければ、切除の上女児として育てる、女児で陰核が2.5cm以上あれば、陰核減縮術を行う)はその後も続いた。このマネーのプロトコル自体や、それに対する社会の毀誉褒貶した受け止めについては、この少年やDSDsを持つ人々の全体的な人間性がいかに没却・「切除」されてきたかを考える重要な点であると思われる。
1Intersex Human Rights Australia, Intersex for allies.(2020年9月30日取得)2020年現在では「30~40種類」とされている。CAH,AIS,ロキタンスキー症候群,ターナー症候群など,現実のDSDs各体の状態ごとのサポートグループのレベルでは,8~9つほどのグループがある。
2Wisniewski A.B. Chernausek S.D. Kropp.B.P, Disorders of Sex Development: A Guide for Parents and Physicians. A Johns Hopkins Press Health Book, 2012.
4医学的には”ambiguous genitalia”(曖昧な外性器)と呼ばれるが、社会ではまるで性別が曖昧であるかのような誤解・偏見があるため、当事者や家族からは批判が多い。代替案としては、”Different genitalia(形が違う外性器)”や”Nontypical genitalia(非定型的な外性器)”などがある。Lin-Su K,Lekarev O, Poppas DP, Vogiatzi MG、Congenital adrenal hyperplasia patient perception of disorders of sex development nomenclature、Int J Pediatr Endocrinol. 2015;2015(1):9、Ellie Magritte,Working together in placing the long term interests of the child at the heart of the DSD evaluation, J Pediatr Urol. 2012 Dec;8(6):571-5
9The Intersex Society of North America (ISNA): www.isna.org/ (2020年9月30日取得)
10John Colapinto, As Nature Made Him: The Boy Who Was Raised As A Girl. Harper Perennial,2000(村井智之訳『ブレンダと呼ばれた少年―ジョンズ・ホプキンス病院で何が起きたのか』無名舎,2000年).ジョン・マネーは1960年代を中心に、特にインターセックスやトランスセクシュアルの研究から、性科学の第一人者と呼ばれた性心理学者。「性的嗜好(sexual preference)」を「性的指向(sexual orientation)」に言い換え、トランスセクシュアリズム(後の「性同一性障害」の概念)の人々やDSDsを持つ人々に対して、言語学で使われていた「ジェンダー(gender)」を「性別同一性」等の意味ではじめて援用する。マネーの理論は、生まれて18カ月以内の子どもの性自認は中立であり、24カ月までに社会的に獲得された性別同一性は不変のものとなるというもので、この理論のもと、割礼手術の事故でペニスを失った一卵性の双子男児の一方に対し、このままでは男性としての性別同一性が確立できないとし、精巣摘出・女性ホルモン投与の上、事故や「治療」のことは本人に一切隠した上で女児として育てることを勧め、両親もそれに従う。マネーはその後、この子どもが順調に女の子として育っており、性の分化において、生物学的な要素より環境に優位性があることを証明する揺るぎない証拠だとし、トランスセクシュアリズムの人々に対しては、性別同一性を変えることは不可能で、むしろ身体の方を自認する性別に合わせる方が良いとし、現在に言う「性別適合手術」を進める上では大きな原動力となり、また女性学では、いわゆる「Nature vs. Nurture(生得か環境か)論争」の中で、「男らしさ・女らしさ」あるいは性自認でさえ決して生まれによって決まるものではなく、社会的に構築されていくものだという有力な証左・象徴として繰り返し引用されていく。しかし1980年代になって、この少年は女の子として扱われることに一度として満足せず、両親に真実を打ち明けられた日から、元の男性で生活をしていることが明らかになる。このケースの結果は、性同一性障害やトランスジェンダーの人々には、今度は「性の自己決定権」の必要性の象徴例として取り上げられるようになる。2004年にこの男性は自殺。しかしマネーによるプロトコルのDSDsを持つ新生児への適応(新生児で陰茎を引っ張って2.5cm以上なければ、切除の上女児として育てる、女児で陰核が2.5cm以上あれば、陰核減縮術を行う)はその後も続いた。このマネーのプロトコル自体や、それに対する社会の毀誉褒貶した受け止めについては、この少年やDSDsを持つ人々の全体的な人間性がいかに没却・「切除」されてきたかを考える重要な点であると思われる。
12Reiner WG, Gearhart JP、 Discordant Sexual Identity in Some Genetic Males with Cloacal Exstrophy Assigned to Female Sex at Birth. N Engl J Med. Jan 22;350(4):333-41, 2004
性分化疾患(Disorders of sex development)とは、医学的に「染色体や性腺、もしくは解剖学的に体の性の発達が先天的に非定型的である状態」1を指す。欧米の一部の運動では「インターセックス(intersex)」とも呼ばれている。しかし、両用語とも、包括用語自体を拒否する患者家族会やサポートグループがほとんどであるため、本論では、当事者の発案から近年医療でも用いられるようになっている「体の性の様々な発達(Differences of sex development:DSDs)」という呼称を用いる2。
DSDsは、1993 年、当事者女性のシェリル・チェイス(Bo Laurant)による北米インターセックス協会(Intersex Society of North America:ISNA)3の発足以来、当事者・家族の医療状況が問題となり、日本では橋本秀雄氏の著作で取り上げられ、「男でも女でもない性」「性のグラデーション」といったフレーズで、LGBTQ等性的マイノリティの人々とともに<インターセックス>の認知が広まった。
非定型的な体の性を持つ人々への(誤った)医学的治療について、1998年私がHastings Center Reportで書いた小論、『「あいまいな性器」かアンビヴァレントな医療か?インターセクシュアリティ治療の倫理的問題』を再版しないかと、毎年、生命倫理のテキストブックの編集者がそれぞれにリクエストしてきているようです。この小論は、あの領域ではじめて、倫理的批判を表明したものであり、それは今でも十分説得力を持つものであり続けているわけですが、今年、また別の再版リクエストを受け出版されるのを機に、改訂をすることにしました。改訂の権利は私にありますので、ここで少しご紹介したいと思います。
1998年以降広く一般に知られるようになったのは、Max BeckやHoward Devore、そしてボー・ローラン (シェリル・チェイスとしても知られています)など、インターセックス権利運動のリーダーを扱ったテレビ番組も含め、インターセックスのちゃんとした話がメディアの注目を集めたことも大きいでしょう。2000年には、John Colapintoのすばらしい著書、『As Nature Made Him(ブレンダと呼ばれた少年)』で、私が1998年の小論の最初に、マネーがつけていた偽名(“John/Joan”)で紹介した男性、David Reimerのすべての物語が語られました。2004年、悲しいことにReimerは自殺し、その結末は、Reimerが恥辱や時代遅れの性規範、そして嘘に基づいた問題だらけの医療システムによって損なわれたからだという印象を一般に与えました。
2002年には、Jeffrey Eugenidesの小説『Middlesex(ミドルセックス)』が、インターセックスの5α還元酵素欠損症を持つ人のライフストーリーを―その中には、John Moneyのような医者との出会いも入っていました―物語ります。『Middlesex』は300万部以上売れ、Oprah’s Book Club(訳者注:アメリカで有名なブックレビューの番組)にも登場し、そして奇妙なことに、フィクションのお話にも関わらず、なぜか多くの医者がインターセックスの治療について考え直すことにつながっていったようです。
これはもっともラディカルで歓迎すべき進歩です。医療従事者の中には、患者や家族に、それぞれの疾患のサポートグループを積極的に勧める人もいますが、多くはそこまで行っていません。彼らが私によく言うのは、間違った情報や「間違った態度」を患者がサポートグループで拾ってくるのではないかと心配しているということです。Androgen Insensitivity Syndrome Support Group(AISのサポートグループ)やHypospadias and Epispadias Association(尿道下裂・尿道上裂のサポートグループ)といった良質なサポートグループもたくさんあるんですけどね。
1998年以降、医療行為で恐らくもっともはっきりした変化は、「インターセックス(中間性)」という用語や「hermaphrodite(半陰陽:両性具有・男でも女でもない性)」を基にした用語(「male pseudohermaphrodite(男性仮性半陰陽)」など)から、「disorders of sex development (DSD)(性分化疾患)」への専門用語の変更です。私はこの変更を進めたひとりです。なぜなら、
「disorders of sex development」という用語は、2006年シカゴでの、主要な北アメリカとヨーロッパの小児内分泌学会によるコンセンサス会議で正式に採用されました。DSDとは、「染色体、生殖腺あるいは解剖学的性別の発達が非典型的な先天的状態」を意味します。私と同僚たちはまた、2005年に編集した2つのハンドブックでも「DSD」という用語を使いました。ひとつはDSDの小児科ケアの医療ガイドライン、もうひとつは両親のためのハンドブックです。
インフォームドコンセントと皆で決定を共有していくアプローチ(これは両親に本当の権利があります)*3は、それぞれのケースでは実際どのようなものになるのかという本質的な議論も多くなっています。2008年、Intersex Society of North America(ISNA)が解散してから、医療改革の推進をより活発に行なっていく2つの組織が、Accord Alliance (DSDへの進歩的なチームケアを実行していくことに焦点を当てた組織)と、Advocates for Informed Choice(非定型的な体の性を持った人とその両親の権利を守るための法的なツールを用いることを中心とした組織)です。
しかし,最初のエヴィデンスを発表したBritish Journal of Sports Medicineは,今になってその2017年の論文の「訂正」を発表したため,この規制ルールはすぐに捨て去られるべきだという声が高まっている。また,セメンヤ選手の弁護士は,なぜオリンピック終了の数日後まで発表されなかったのかということを疑問視している。
具体的には「400m,400mハードル,800m,ハンマー投げ,棒高跳びにおいて,テストステロン値が高い女性アスリートは,テストステロン値が低いアスリートに比べて,明らかに競争上の優位性がある」(‘Female athletes with high fT [testosterone] levels have a significant competitive advantage over those with low fT in 400 m, 400 m hurdles, 800 m, hammer throw, and pole vault.’)としていたが,「この記述は次のように修正されるべきだ。『女性アスリートにおける高テストステロンレベルは,400m,400mハードル,800m,ハンマー投げ,棒高跳びにおいて,低テストステロンレベルの人よりも高い競技力と関連していた』と」(‘High fT levels in female athletes were associated with higher athletic performance over those with low fT in 400 m, 400 m hurdles, 800 m, hammer throw, and pole vault.’)。
元のデータを作成した世界陸連の科学者は,そのデータに問題があることを認めていた。British Journal of Sports Medicineに掲載された「訂正」を書いたステファン・バーモンとピエール=イヴ・ガルニエは,テストステロンの上昇と女性の運動能力の向上との間に「因果関係を示す確証はない」と述べていたのだ。
セメンヤは,美容ブランド「Lux」と共同で「Born This Way」と題した公開キャンペーンを開始し,女性たちに「自分の美しさと女性らしさを堂々と表現する」ことを呼びかけている。また,「#IStandWithCaster」というハッシュタグをつけた嘆願書を作成し,コー会長の考えを変えさせようとしている。